今回のテーマは日本の童謡、唱歌。昭和の名歌手たちがカバーしたバージョンを聴きながら、最近忘れられがちな名曲たちの魅力について、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が、ラジオ番組『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』(ラジオ関西)で語り合いました。
【中将タカノリ(以下「中将」)】 最近、ネットサーフィンしていたとき「幼稚園の音楽会に行ったら子どもたちがケツメイシの『友よ』(2016)を歌っていてびっくりした」という書き込みを発見しました。僕の時代にも赤い鳥の『翼をください』(1971)、井上陽水さんの『少年時代』(1990)みたいなポップスを歌うことはあったけど、しっとりした曲が多かったし、あくまで童謡、唱歌が中心。学校で歌われる楽曲もずいぶん変わってきたようです。
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 私の時代も、童謡や唱歌は一応、授業で教わるけど、合唱コンクールとかだと自分たちで流行りのポップスを選んで歌っていましたね。
【中将】 時代ですねぇ。昔は卒業式と言えば『蛍の光』、『仰げば尊し』でしたが、これも古い、封建的だという理由であまり歌われなくなってるようです。いい曲だと思うんですけどね。
あまりに昔の名曲たちが忘れ去られるのも寂しいので、今回のテーマは童謡、唱歌。それも昭和の流行歌手たちがレコーディングしたバージョンを紹介していきたいと思います。
まずは安全地帯で『小さい秋みつけた』(1985)。三木露風さんが、故郷の兵庫県揖保郡龍野町(現たつの市)で過ごした少年時代を振り返った歌詞です。
【橋本】 もちろん私も子どもの頃に歌っていたあの曲が、完全に玉置浩二さんワールドに染まっていますね(笑)。
【中将】 玉置さんはお祖母さんが民謡の先生だった影響で、ポップスやロック以外にもいろんな日本の音楽から影響を受けてるそうです。『小さい秋みつけた』みたいな童謡って、歌心や表現力を乗せて歌うにはいい曲だなと思います。
【橋本】 私の学生時代に「童謡を読み解く」という授業があって、とても好きでした。歌詞の表現するところや魅力について考えるという内容なんですが。
【中将】 考えながら聴くことって大事だと思いますね。『小さい秋みつけた』は1955年にNHKの特別番組『秋の祭典』のために作られた曲。この手のジャンルでは比較的新しいほうだし、手がけたサトウハチローさんの鮮やかな感性が素直に伝わってきます。
次は岩崎宏美さんが歌った『赤とんぼ』(1978)。1921年に作られた曲なので、背景は今の僕たちにはちょっと分かりづらいかもしれません。「十五でねえやは 嫁に行き」とか今ではあり得ないことなので。
【橋本】 童謡には時代の空気を語り継いでいくという意味もありますよね。それにしても岩崎さん、歌上手すぎますね! 『赤とんぼ』の完成形を見た気がします……。学校で一人ずつアカペラでこの曲を歌う授業があったのですが、出だしの子がキーを間違って、後の人も全員それにつられてしまって爆死した思い出があります(笑)。