神戸市北区の路上で2010年10月、堤将太さん(当時16歳・高校2年)が殺害された事件で、殺人罪に問われた元少年(31・事件当時17歳、記事中では「男」と表記)とその両親を相手に、遺族が約1億5000万円の損害賠償を求めた裁判が本格化する。
遺族は,男の刑事裁判で直接問うことができなかった「長期逃亡」について、男の両親に対して監督責任があり、これにより、男が犯人であることの発覚を困難にしたと主張している。
代理人弁護士によると、犯行直後に両親が男を転居させるなど逃亡を促した可能性が高く、「犯行後の共同不法行為」として責任を明確にする狙いがあるという。
2023年6月に開かれた男の刑事裁判で、男が犯行後、千葉県浦安市や愛知県豊山市のほか、父親の赴任先の中国にも行き、ドイツへサッカー留学をしていたことも明らかになっている。
将太さん殺害事件をめぐる刑事裁判では、男は殺意を否定した。法廷で、一度も遺族と目を合わせることはなかった。「将太さんの将来を奪ってしまった」という反省の弁を法廷で述べたが、いまだに遺族のもとには、正式な謝罪の言葉は届いていない。
訴状では男が長期逃亡している間、遺族はインターネットなどでの誹謗中傷、マスメディアによる執拗な取材で疲弊するなど、深刻な二次被害を受けたとしている。
さらに、男が小学6年頃から不満があると暴力に及び、犯行前の2010年1月以降、同級生をナイフで脅すなどの暴力傾向が強まり、同年9月には、たまたま地下鉄車両に居合わせた男性を殺そうと首を絞める暴力行為に及ぶなど問題行動や暴力的な性格について、監督・指導する義務を尽くさなかったと指摘している。
そして、事件当時、高校2年生だった将太さんが、卒業後の進路を考え始めていたことに触れ、「逸失利益(いっしつりえき)」という、事件がなければ将太さんが一定の年齢まで得られたであろう収入額の合計や慰謝料などを算定した。
男は答弁書で、「犯行は認めるが、責任は認めない」という趣旨で反論しているという。
将太さんの父親・敏(さとし)さんは12日の会見で、「人を殺したことに対する責任を認めないなどあり得ない。事実と向き合い、その償いをしてほしい」と訴えた。第1回口頭弁論は8月22日に神戸地裁で開かれる。