兵庫県姫路市出身で、数多くの芸術的な仏像写真を残した写真家、小川晴暘(1894~1960年)と小川が創設した文化財専門の写真館「飛鳥園」(奈良市)について紹介する特別企画展「小川晴暘と飛鳥園 100年の旅」が姫路市立美術館で開かれている。晴暘と息子の小川光三(1928~2016年)が撮った写真作品を中心に、飛鳥園の100年にわたる活動をたどる資料計約130点を展示。
1894(明治27)年、姫路市に生まれた晴暘は絵画と写真の勉強のため、16歳で上京。25歳の時、水彩画が文展に入選、同時期に朝日新聞社に写真部員として入社した。奈良に住み、仕事のかたわら仏像を撮影していたのをきっかけに、書家で歌人、美術史家の會津八一と親交を持つように。1922(大正11)年、新聞社を辞め、會津のすすめで仏像をはじめとする文化財専門の写真館「飛鳥園」を創業。以降、国内外の文化財の撮影に力を注ぐ生涯を過ごした。飛鳥園は光三の承継を経て、現在は光三のおいにあたる光太郎が社長を務めている。
会場は4章構成。第1章は、薄暗い展示室にモノクロームの仏像写真が浮かび上がる神秘的な空間だ。かつて切手の図柄にも採用された中宮寺(奈良県生駒郡斑鳩町)の菩薩半跏像など、見覚えのある代表作も並ぶ。
いずれの作品も、パーツの美しさを強調するような角度、画面の切り取り方によって、実物に相対した時以上に細部まで観賞でき、仏像が持つ新たな魅力にも気付かされる。なかでも、暗黒を背景に憤怒の形相を浮かべる新薬師寺(奈良市)金堂の十二神将・伐折羅(ばさら)大将像は、生きているかのような迫力に満ち、ひときわ印象的だ。
第2章では、大正末期から昭和にかけ、晴暘が撮影した朝鮮・慶州の仏国寺や中国山西省の雲岡石窟の仏像、インドネシアやカンボジアなどの遺跡写真を展示。第3章は、撮影の仕事と飛鳥園の経営を引き継いだ三男、光三のカラー作品、第4章は飛鳥園の長い歴史の中で活躍した、小川親子以外の写真家たちについてスポットを当てている。