私たちの暮らしを支える身近な素材の一つ「ウレタンゴム」。合成ゴムの柔らかさとプラスチックの固さを併せ持った素材で、医療用機器やバイク、ATMの部品のほか、配送センター・倉庫などで活躍するフォークリフトのタイヤ、キャリーケースのキャスターなどにも使用されている。
兵庫県神戸市にあるメーカーの社長は、毎朝ウレタンゴムに対して挨拶するほどの強い思い入れを持って製品と向き合っているという。日々の取組みや、苦境を打開する転機となったとある日常の出来事など、経営者のユニークな視点を探る。
☆☆☆☆☆
ウレタンゴムの製造・販売を行う株式会社立成化学工業所(神戸市西区)。代表取締役・畠中浩さんの父が興した会社で、創業から今年で56年目を迎える。“材料に愛着を持っている会社”にしたいとして、「本物のウレタンを追求する」との言葉を経営理念に掲げている。
敷地内には、ウレタンゴムの材料が入った一斗缶。畠中さんは毎朝会社に着いたら「ウレタンゴムの皆さんおはようございます。本日もどうぞよろしくお願いします。いつもありがとうございます」と挨拶するのだという。「5年間続けたところ、ウレタンゴムの方から『ありがとう』と声が聞こえた気がしました。それくらいウレタンゴムを愛しているんです」と畠中さんは笑う。
社長に就任して20年が経つが、数年前まで、会社の業績を上げるなど経営者としての重責に苦しみ続けていたそう。そんな苦境の転機となった出来事が“料理”だった。
ある日、たまたま仕事のスケジュールが変更になって帰宅した畠中さん。時間があるからと、50年以上したことがなかった料理を始めたところその面白さに気付き、のめり込んでいった。
料理をする中で気付いたのが、“料理とウレタンゴム加工はよく似ている”ということだった。
「料理は、玉子焼きを作りながらウインナーも焼いて、後ろでブロッコリーをレンジで温めて……とマルチタスク。それまでにない考え方をすることで、物事を色々な面から見られるようになってきたんです」(畠中さん)
全く畑違いの分野に触れることで、現場目線の気付きが生まれた。
さらに、材料面における発見もあったという。元々ウレタンは液状で、熱を加えることによって化学反応を起こして固形になる。そのことから「熱をいかにうまく伝えるかが肝」というポイントを、だし巻き玉子を作っている際に再認識したのだそう。