兵庫県神戸市長田区は「ケミカルシューズ」発祥の地とされている。戦後の頃から、靴づくりは地域の地場産業として発展。“靴のまち長田”として知られるまでになった。しかし1995(平成7)年、阪神淡路大震災でこの地域は甚大な被害を受け、火災や建物の倒壊によって靴メーカーが減少。その後海外からの輸入品が増えたことなども重なって、産業としての規模は年々縮小している。
そんな街で、靴の中敷きの下に入っているバネ部品「金属製シャンク」を作っているのが、今年で創業60年を迎えた株式会社田中務補(かねすけ)商店だ。シャンク自体は、1931年にイタリアのファッションデザイナー、サルバトーレ・フェラガモが考案した。靴の背骨にあたるもので、歩行時に足に加わる衝撃を吸収して疲れにくくしたり、靴の形を維持したりするために欠かせない部品。田中務補商店は常時2000種類を取り扱っている。現在国内のシャンクメーカーは同社が“唯一”とのことで、国内に競争相手はいないという。
ライバルになる会社がないという点での問題もあると、代表取締役社長・田中伸明さんは話す。
「開発や研究をしなくなってしまったり、営業活動をしなくなったりしています。弊社の営業(担当者)もほぼいないような状態で、お客様との接点などがどんどん薄くなってしまうなど悪い面があります」(田中さん)
国内では他にシャンクを作る会社が出てくる気配はないそうだが、海外からの輸入品には既にシャンクが取り付けられている状態のため、こうした海外製品どう向き合っていくかが重要だと話す。
一方で、畑違いと言える商品作りも進めている。先代の社長と一緒に作り上げてきた「ドリームキャンドル」だ。
いわゆるパーティーグッズ。花のつぼみ型のオブジェの中央から上に突き出た花火に火を灯すと、炎が導線をゆっくりと伝ってそれぞれの花びらの先付けられたろうそくに点火、花が開く。それだけではない。花の中から小さな人形たちが登場し、花びらは回転。メロディーとLEDも作動する。お祝いムードを演出する楽しいグッズとして、SNSでもしばしば話題に上る人気商品になっている。