飛行機もドローンもない時代に作られた、精緻で優れた古地図を紹介する特別展「古地図からひろがる世界―南波松太郎・蒐集70年の軌跡―」が神戸市立博物館で開催されている。国内屈指の質と量を誇る同館の古地図資料の中から優品を選び、約60件を一挙公開。新発見された18世紀の日本総図など、地理歴史ファン垂涎のラインアップで構成されている。3月23日(日)まで。

同館の古地図資料は、神戸商船大教授などを歴任した南波松太郎(1894~1995年)のコレクションを1つの柱にしている。南波は旧制中学時代の親友だった、後の地理学者・秋岡武次郎(1895~1975年)に誘われて古地図収集を始めた。「君(秋岡)が関東で集めるなら僕は関西を引き受けた」と応じた南波は、生涯にわたってコレクションを続け、古地図関係者の間では「東の秋岡、西の南波」と称された。
大きな目玉は、新発見の「国図 壹・二・三・四・五」(1728年以降)。江戸幕府が数学者・建部賢弘に作らせた「享保日本総図」の写本で、享保日本総図の原本は確認されていないことから、非常に貴重な資料といえる。国界や街道、航路が詳細に描かれており、兵庫県にあたる箇所には、東から「夙川」「芦屋川」「住吉川」「都賀川」「生田川」「ミナト川」と記載。「六甲山」「ヒヨドリ越」などの地名も見える。現在も残るそれらの名前が、少なくとも300年前から同じだったことが分かる。


圧倒されるのは、約3メートル四方の巨大な地図「大明地理之図」(1681年成立・1747年模写)だ。明代の中国を中心に、朝鮮、日本など東アジア全体をカラフルに色分けし、地名や歴史上の事柄を書き入れている。長崎を東の起点とし、西に向けて朱色の航路線が引かれているのが興味深い。
そのほか雲仙岳の爆発により、大火砕流が島原の城下町へと迫るさまを描いた「九州肥前国嶋原大変前絵図」「九州肥前国嶋原大変山崩図」(いずれも18世紀)、ポルトガル人が日本に持ち込み、その後日本人の手によって写されたとみられる海図「東亜航海図」(17世紀)なども見どころ。さらに和船の絵、測量器具、天文図など、船舶の専門家である南波が関心を寄せて集めた多彩な品々も並んでいる。





