
しかし、講演を聞く方々の立場は違う。敏さんは、「少年院、刑務所、警察学校、行政機関、民間の方々…。犯罪は被害者と加害者を生む。では、どうすれば加害者を生まぬ社会になるのか、ともに考えなければ」と思う。
毎年、命日は家族だけで迎える。この日、将太さんを偲ぶ友人や事件に長く携わった捜査員が花を手向けに訪れる。将太さんと敏さんらがひとつになる特別な日だ。
「15年、いろいろあったね」。将太さんの遺影のそばには、メジャーリーガー・大谷翔平選手のサインボールや、大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」のグッズも。いま、将太さんが生きていれば大谷選手の活躍を語り合い、万博会場・夢洲へ一緒に…ということもあったに違いない。

5年前(2020年)の命日、敏さんはラジオ関西の取材に対し、「私はかつて、仕事人間で家庭をかえりみることがなくてね。でも事件が起きてからは変わった。そして、いつになく犯人が捕まりそうな気がして」。この言葉に、同席した妻・正子さんもうなずいていた。犯人逮捕はその10か月後だった。
「真実を明らかにすることは将太のため。私は遺族として、絶対にこの事件を忘れない。事件を忘れることは、将太を忘れることになるから」と語る。
「犯罪被害者とその遺族という、世間にほんの一握りの存在を知ってもらいたい」。この気持ちが揺らぐことはない。
もう二度と、このような悲しい出来事が起きないように……。




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