東京・池袋で2019年4月、暴走した乗用車にはねられた母子ら11人が死傷した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われ、禁錮5年の実刑が確定した旧通産省工業技術院・元院長の男(90)が近く刑務所に収容される。
逮捕されずに在宅のまま起訴されていた男は、刑事施設に収容(収監)された。男は公判で自身の過失を否定し、無罪を主張していたが、9月15日、犯罪加害者家族の支援をしているNPO理事長と面会し「被害者や遺族の方に申し訳ない。罪を償いたい。収監を受け入れる」と控訴しない意向を示していた。
刑事訴訟法には、健康を著しく害する場合や、年齢が70歳以上の場合、検察官の裁量で刑の執行を停止できる規定がある。ただ、実際に停止されたケースは極めてまれで、収監されても禁錮刑のため、懲役刑と違い刑務所での労務作業は科されない。
藤本尚道弁護士(兵庫県弁護士会)は、高齢者ドライバーを含む「運転免許」のあり方について、次のような見解を示す。
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そもそも「免許」は、一般に禁止されることを特別に許可する制度です。自動車運転は危険な行為として一般に禁止されていることが原点です。自動車運転の利便性は社会的に有用ですが、他方で大きなリスクもあります。重量と速度が大きい自動車の操縦を誤ると、とんでもない「凶器」と化するからです。だからこそ、一定の資質(視力・聴力・判断力等)を持ち、交通ルールとマナーを習得し、かつ、自動車の操縦技術を体得した人に対してのみ、一般には禁止される自動車の運転を許可するのが、運転免許の制度趣旨です。いわば「選ばれし者」だけが自動車の運転を許されるのですが、現在の日本の免許人口は8200万人であり、全人口の65%が運転免許を持つ計算になります。
誰もが運転免許をもつ社会では、社会的なリスクの問題を自覚せずにハンドルを握る人たちが増加します。「免許」の制度趣旨は忘れ去られ、自動車運転が「権利」として捉えられるため、一旦与えた「免許」を取り上げるには納得できる理由が必要となります。高齢者の免許返納が進まない原因がここにあります。
高齢者の免許返納問題で悩んでおられるご家族も多いと聞きます。本人が家族の助言に「聞く耳を持たない」時点で、すでに問題が顕在化しています。地方はともかく、都市部では公共交通機関が充実しているので、免許の返納はもっぱら本人の自覚とプライドの問題に帰着します。