20曲以上のザ・スミスの名曲で彩られた、80年代がよみがえる青春音楽映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』。今作を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。
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“ザ・スミス”というバンドは、1980年代サッチャー政権下のイギリスで、賃金の低下や失業率の増加に不満を持つ若者たちの気持ちを代弁するかのような歌詞とメロディアスなギターフレーズで人気を博し、多くのミュージシャンにも影響を与えた4人組のグループ。活動期間が1982年~1987年とあまり長くないことで、熱狂的なファンがいた一方では、あまり知らないという人もいるだろう。そう言えば、私もその存在は知っていたけれど、当時よく聴いていたのはカルチャークラブやデュラン・デュランだった。でも、この映画で彼らのたくさんの曲を聴き、若き日のモリッシーの映像を観て、何故リアルタイムでもっと彼らの曲を聴いてなかったのかと、ちょっと後悔した。
1987年9月、そんな“ザ・スミス”が解散を発表した日の、アメリカのコロラド州デンバー。スーパーのレジ係のクレオ(ヘレナ・ハワード)は、大好きなバンドの解散のニュースを聞き、そんな悲劇をもっとみんな重く受け止めるべきと、町の人々の何も変わらない日常に苛立ち、なじみのレコード店に行き店員のディーン(エラー・コルトレーン)にその思いをぶつけた。クレオのことが好きな彼は、いつもレコードやカセットテープを万引きしていた彼女のことを、見て見ぬふりをしていたのだが、この日も、デートに誘ってみたが断られてしまう。
クレオの元カレで幼馴染のビリー(ニック・クラウス)が翌日に陸軍への入隊を控えていたので、その夜は仲間で大騒ぎする予定だったのだ。マドンナのファッションを完コピしているシーラ(エレナ・カンプーリス)とボーイフレンドのパトリック(ジェームズ・ブルーア)、それにクレオとビリーの4人は友人宅のパーティーやクラブに出かけバカ騒ぎ。
でも、自分たちの将来について大いに悩み、パトリックは自らのセクシャリティについて、本当は同性が好きかも……と大きな葛藤を抱えてもいたのだ。
その夜、ディーンは人生に不満があるなら行動に移すべきだと、拳銃と“ザ・スミス”のレコードを抱えて、町のヘビメタ専門のラジオ局に押しかけ、次から次へと曲をオンエアすることを要求する。最初はこんな曲なんて……と言っていたDJのフルメタル・ミッキー(ジョー・マンガニエロ)も、無理やり聴かされているうちに、いつしか気持ちが動くのを感じ始めるのだった。
生きる夢なんて、どこにあるのさ……。音楽だけが僕らの救いなんだ……という若者たちの思いと葛藤は、いつの時代もどこの国でも、変わらないようだ。
『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』
2021年12月3日(金)より全国公開!
大阪ステーションシティシネマ/TOHOシネマズなんば/京都シネマ/神戸国際松竹/TOHO シネマズ西宮 OS 他
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