「ガラス越しから見える楠公さん(湊川神社)も、もう見納めですな」。
「瓦せんべい」で知られる老舗和菓子店「菊水総本店」(神戸市中央区多聞通)が3月21日に閉店し、1868(明治元)年創業以来、154年の歴史に幕を下ろす。
堀木利則代表(68)はラジオ関西の取材に、「菊水と言えば楠公さん、楠公さんと言えば菊水。菊水と言えば、瓦せんべい。それが154年の重み、歩みやと思うてます」としみじみ語る。
小麦粉や卵を溶いた生地を瓦の形に焼く瓦せんべいは、神戸の土産として親しまれ、神戸市内でも菊水総本店のほか数社が伝統を守っている。
店の前には湊川神社。初代店主が楠木正成をまつる湊川神社の社殿が完成した1872(明治4)年、正成の功績を後世まで伝えたいと考え、社殿建立の際に瓦を寄進する慣わしにちなんで、瓦型のせんべいを作り、正成の勇姿を焼き入れたのが「瓦せんべい」の始まりとされる。その功績が称えられ、有栖川熾仁親王より「菊水」の姓を賜ったという。
戦後の神戸の発展とともに歩み、神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア'81)では直営店も出店して大盛況、阪神・淡路大震災も乗り越えた。しかし、洋菓子人気などに押されて、2006年にUCC上島珈琲(本社・神戸市中央区)の傘下で再建を目指すこととなり、明治期から六代続いた創業家の手から離れた。