「ロシアがウクライナへ侵攻したことは、いかなる理由があろうとも、許すわけにはいかない。スラブの母であるウクライナを子であるロシアが攻撃するとは言語道断。プーチン、今すぐ攻撃をやめなさい」。
軍事侵攻が始まり1週間経った2022年3月1日、日本ウクライナ文化交流協会(大阪府八尾市)会長・小野元裕さんはホームページに声明を出した。これに先立ち、小野さんはラジオ関西の取材に「KGB(ソ連国家保安委員会)の諜報員だったプーチン大統領にとって、1991年のソビエトの崩壊は耐え難く、ソビエトの再構築、あるいはソビエトに匹敵する勢力圏を復活させたいという野望、それを遂行する最後のチャンスととらえているのだろう。世界をも巻き添えにする危機感を覚える」と、あらゆる悪・不幸が封じ込まれ、絶対に開けてはならなかった“パンドラの箱”が開いたことに落胆を隠せなかった。
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ロシアが占領したウクライナ東部・南部4州の併合宣言から1か月以上が過ぎた。
小野さんはこの直前の9月末、軍事侵攻開始以来、初めてウクライナを訪れた。それには「ある目的」があった。
関西国際空港からドバイ経由でポーランド、そこからバスでウクライナ西部の都市・リヴィウへ。さらに知人の車に乗って、避難所建設予定地へ27時間かけてたどり着いた。これまで避難者の受け入れをサポートしてきた小野さんは、「日本に入国した避難者が、いかに遠くから来ているのか、よくわかった」という。
小野さんにとって、リヴィウは、新型コロナウイルス感染拡大前は、文化交流事業のために訪れていた場所。幾度にもわたるパスポートコントロールや荷物チェックを経てようやく着いた。この日、3人の若者が遺体となって帰ってきた。いたたまれない気持ちになった。これが現実だった。
小野さんは『罪と罰』、『カラマーゾフの兄弟』などで知られるロシアの文豪 、ドストエフスキーに関心があり、大学でロシア語を学ぶうち、歴史を調べるうちにロシアとウクライナの関わりの深さを知る。
思いはさらに続く。歌人・与謝野晶子の詩が思い浮かぶ。
《あゝをとうとよ、君を泣く、/君死にたまふことなかれ、(中略)/人を殺して死ねよとて/二十四までをそだてしや》
コロナ禍で2年間、交流が滞っていたが、今回は現地の大学へ出向き、「君死にたまふことなかれ」をウクライナ語に訳して紹介した。晶子の詩は、折しも100年あまり前の日露戦争で、激戦地にいる弟の身を案じて「戦死だけはしないで」と、切実な思いが込められている。しかしウクライナの現実を見れば、ロシアに降伏して占領されたら、さらに多くの人々の命が奪われてしまう。だから戦い続けるしかないことを切々と訴えかけられた。「人を殺せと、誰が(あなたに)教えたのか」と詠んだ晶子の思いとは反するかも知れないが、きっとウクライナの人々に共感が得られるはずだと信じ、冊子にして届けた。