神戸市北区で2017年7月、祖父母や近隣住民ら5人を殺傷したとして殺人や殺人未遂などの罪に問われ、一審・神戸地裁で無罪とされた無職の男性(32)の控訴審初公判が12日、大阪高裁で開かれた。男性は出廷しなかった。
刑事責任能力の有無が最大の争点になった一審判決(神戸地裁・裁判員裁判 2021年11月4日)は、精神疾患(統合失調症)により善悪を全く判断できない「心神喪失状態」だった疑いがあると判断し、無罪を言い渡した。検察側が控訴していた。
男性は一審で、5人を殺傷したとする起訴内容については「間違いない」と認め、弁護側は無罪を主張。
一方、検察側は一審判決の事実認定に「重大な誤りがある」と反論。一審では「刑事責任能力は低下していたが、一定程度残っており、心神耗弱状態だった」と主張し、無期懲役を求刑していた。
■一審で分かれた鑑定医の意見
神戸地検は男性について、起訴前に2度の鑑定留置(それぞれ別の鑑定医が担当)を実施したが、一審の証人尋問で、精神鑑定に関わった精神科医2人が異なる意見を示していた(※各鑑定医は法廷内の発言で「責任能力」という文言を使用していない)。
一方の医師は、男性を統合失調症としたうえで「ストレスを一気に爆発させるタイプ」との鑑定結果を示したが、もう一方の医師は、統合失調症について、あくまでも「疑いがある」程度に過ぎず、最初の医師が述べるほどの精神状態ではないとした。そして、妄想状態はあったとはいえ日常生活では支障はなく、自分の行動を思いとどまる判断ができたと述べていた。
12日、検察側の証人として出廷した医師は「精神疾患の圧倒的な影響下にはなかった」と証言。被告が捜査段階の取り調べで正常にやりとりし、犯行に対する”ためらい”の気持ちを供述していたことなどから、一定の判断力があったと述べた。
弁護側は、検察側の控訴棄却を求めた。弁護側証人として出廷した医師は、一審判決の精神疾患の評価は適正だと説明した。
事件は2017年7月16日早朝に発生、起訴状によると男性は神戸市北区の自宅で、同居する祖父母(いずれも当時83歳)の首を包丁で刺すなどして殺害後、近くに住む女性(当時79歳)も刺殺。さらに母親(58)や近所の別の女性(71)も金属バットなどで襲い、重傷を負わせたとされる。