周囲を海に囲まれた日本では年中新鮮な魚が食べられる。北は日本海、南は瀬戸内海と自然条件が大きく異なる2つの海に面する兵庫県でも、古くから多彩な漁業が営まれている。「今の時期はやっぱりカレイやアコウなど、白身の魚がおいしい時期ですね」と話すのは、神戸市垂水区にある株式会社木下水産の代表取締役、木下広忠さんだ。
同社は80年以上、3代にわたって続いている。もともと垂水廉売市場で鮮魚店と隣接するスペースでの食事処を経営し長らく愛されていたが、2022年、周辺再開発に伴い垂水廉売市場が閉鎖。7月に現在の場所に移転し、「魚処木下」として再出発した。
「コロナの影響で、右も左も分からない中での移転だったため、まだ至らない点は多々あるとは思うのですが、できるだけお客さんの要望に応えられるように考えています」と、木下さんは話す。ランチは海鮮丼や刺身定食などを提供。垂水はしらすも有名で、しらすのピザなどもラインナップしている。営業時間を伸ばしたのは、駅の目の前に移転したのをきっかけに、夜にも利用してもらいやすいようにとのこと。
木下さんは、垂水沖合で獲れた新鮮ないかなごを、醤油、キザラ(濃縮し、結晶させた砂糖の一種)、土生姜を用いた昔ながらの製法で炊き上げる。そうしてできたいかなごのくぎ煮を同店では、ちょっと変わった名前で販売している。
「いかなごのくぎり」だ。
「くぎ煮」という呼び方は、煮上がったいかなごの様子が折れた古釘に似ていることなどからついたものとされている。もとは「くぎり」だったのが、なまって「くぎ煮」になって定着していったという。木下さんは「先代からの味をしっかりと守っていかないといけない」との思いから、昔ながらの作り方はもちろん、“くぎり”という言い方にまでこだわっている。
いかなごの漁獲量は年々減少してきている。木下さんは「漁師の方が、漁獲制限も行うなど色々頑張ってくれています。いかなごは垂水の味ですので、僕らもそのぶん頑張っていかないとあかん」と気合を込めた。
せっかくなので、魚のプロにおいしい魚の見分け方も聞いてみた。
「簡単な方法でしたら、“頭の小さい魚”を選ぶようにしてください。同じ魚体であれば、肥えている魚ほど頭が小さく見えますので、脂がのってるかどうかがひと目でわかります。頭でっかちのものより、身がしっかりしてるほうがやはりおいしいです」と木下さん。