神戸市北区で2017年7月、祖父母や近隣住民ら5人を殺傷したとして殺人や殺人未遂などの罪に問われ、一審・神戸地裁で無罪とされた男性(32)について、大阪高検が期限の10月10日までに上告を断念し、一審に続いて無罪とした大阪高裁判決が確定した。
大阪高裁は9月25日の控訴審判決で、「男性が妄想の影響下で心神喪失状態だった疑いが残る」と判断し、刑事責任能力を否定。善悪の判断が著しく低下していたが、一定程度残っている心神耗弱状態だったとして無期懲役を求刑していた検察側の控訴を棄却した。
精神鑑定の見解も分かれており、控訴審の証人尋問では、鑑定医の1人は「圧倒的な妄想の支配下にあった」、もう1人は「妄想の影響は限定的だった」と述べ、判断が分かれていた。
判決で大阪高裁は、「一審で、男性は被害者らを人間ではない(男性は「哲学的ゾンビ」と称していた)と確信しており、人を殺害している認識はなかったと認定していた点は相当であると」して、「妄想を確信していた疑いが払拭できない」と指摘。一審判決に誤りはないと結論付けた。
刑事責任能力については刑法39条で、心神喪失状態での行為は罰しないとし、心神耗弱の場合は刑を減軽すると定められている。
高裁判決によると、男性は2017年7月16日、同居する祖父母(いずれも当時・83)や、近くに住む女性(当時79)を包丁で刺すなどして殺害、母親(59)や近所の別の女性(71)にも大けがをさせた。
遺族の1人は、高裁での無罪判決を受け、「専門家(鑑定医)の意見が分かれ、被告人に有利な意見が採用されたのは運なのか。私達が負った悲しみ、苦しみを、一般の方にも納得できるような法律や裁判に変えていくきっかけにしてほしい」と悔しさをにじませた。