大阪・関西万博開催に向けて展開されている『ひょうごフィールドパビリオン』は、兵庫県内各地でおこなわれている持続可能な取り組みを、地域の人たち自らが発信するプログラムです。活動現場を訪れ、見て、学べる体験を発信しています。
その一環として実施されているのが、地域に受け継がれる伝統野菜の農業体験です。姫路市香寺町にある『有機農園ばんごんじんじい』で、種から育てて収穫するだけではなく、次の栽培へつなげるための種採りまでをおこないます。
同農園を営むのは、神﨑一馬さん。地域で大切に受け継がれている在来種の多くを、自家採種にこだわって野菜を栽培しています。約5000平方メートルの畑に、年間30~40種の野菜を有機栽培で作付け。禁止農薬や化学肥料、遺伝子組換え技術を使用しないなど、さまざまな条件をクリアした農作物に与えられる“有機JAS認証”も2012年に取得しています。
神﨑さんによると、自分で育てた野菜から種を採って、その種でまた次の野菜を育てるのは、時間と手間がかかるとのこと。そのため農家は、業者から種や苗を買うのが一般的だそうです。
「いま日本で主に栽培されているのは、“F1種”という一代雑種や一代交配などと呼ばれる品種です。種苗会社で特定の品種をかけあわせて種を採り、病気に強く成長がそろい、見た目もきれいでおいしいという良いとこどりの品種です。ただ、2代目以降は個体によってバラつきができて、栽培も販売も難しくなるんです」と神崎さんは話します。
効率を考えると種を購入する方が手間はかかりませんが、それでも種を採ることでわかることがあると、神﨑さんは考えます。
神﨑さんが農家になろうと決めた時、祖父が野菜の種を分けてくれたのだそうです。それは、大玉に育ったものを選りすぐって残してきたという姫路地方のマクワウリの種や、畑の隅でいいから植えておけと言われた強健に育つ菜っ葉の種など。これをきっかけに、神崎さんは種に興味を持つようになったといいます。
「種には必ず物語がついてきます。その昔、どこか遠くで種を残してくれた人がいて、そのおかげで今も自分は食べることができ、命をつなぐことができている。私は、身近な祖父の畑を通じてそのことに気づきました」と語りました。
同プログラムでは、一年間を通してさまざまな野菜を世話します。例えばニンジンは、種まきから種採りまでを体験することができます。7月に畑を耕し、8月に種まき、9〜10月は間引きや草引きなどをおこないます。そして11〜12月には収穫。さらに、翌年2〜3月は種採り用のニンジンの選抜と植え替え、7月に新たな種を採取するという内容です。