宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)・宙(そら)組に所属する劇団員の女性(当時25歳)が2023年9月に転落死した問題で、遺族側の代理人弁護士が10日、記者会見した。
遺族らは「1か月の労働時間が277時間に達する過重労働や、上級生からパワーハラスメントの被害を繰り返し受け、心身の健康を損なった」などと主張し、歌劇団や運営する阪急電鉄に対し、事実関係の公表や責任を認めて謝罪することなどを求めた。
女性は9月30日朝、宝塚市の自宅マンションの敷地内で倒れて死亡しているのが見つかった。兵庫県警は、その場に第三者が関わった痕跡がなかったことから、飛び降り自殺を図った可能性が高いとみている。
女性は入団7年目で、今年度(2023年度)は新人公演出演者(研究科7年以下の劇団員)の『長(リーダー・下級生に対する指導役)』となった。女性は103期で、当初は同期の劇団員8人が宙組に所属していたが、一部の退団や組替え、休演などで2人(この女性を含む)に減っていたという。代理人弁護士はこの体制に無理があったとした。
また、この2人はいずれも娘役で、衣装や役柄などが全く異なる男役の下級生らの指導も大変苦労を伴うことから、「歌劇団は必要な改善措置を取らなかった」と指摘した。
女性がなくなる前日、9月29日の宙組・本公演に向けた稽古が8月16日に始まった。この期間に上級生らは、もっぱら女性に対してさまざまな注文を付けるなどし、女性の休日は6日間しかなかったという。しかし、その休日も公演準備などに追われ、事実上休みなしだったとみられるという。
代理人弁護士はLINE(ライン)の記録などをもとに、女性が死亡する前日までの1か月間(8月31日~9月29日)の総労働時間は437時間35分と、時間外労働は国の精神障害の労災認定基準(極度の長時間労働とされる160時間)を大きく上回る277時間に達していたとした。
また、女性は2021年8月、上級生からヘアアイロンを額に押し当てられてやけどをしたほか、稽古中に複数の上級生に呼び出され、「下級生の失敗はすべてあんたのせい」「マインドが足りない」「うそつき野郎」などと怒号を浴びせられたとした。
代理人弁護士はこれらの言動について、歌劇団の生徒手帳に記された『上級生、下級生とは縦の絆、同級生とは横の絆』という言葉を示し、「指導の範囲を逸脱した”パワハラ”というべき言動が繰り返されていた。背景のひとつに過剰な縦の関係がある」と指摘した。
さらに、ジャニーズ事務所(当時)の性加害問題で、芸能プロダクションの人権侵害が明らかになったことに触れ、「日本を代表する芸術・芸能分野の劇団の1つである宝塚歌劇団で、将来ある若い女性のいのちが奪われたことは、極めて重大」とした。
そのうえで、宝塚歌劇団は大手私鉄・阪急電鉄の一部門であり、阪急電鉄は全社を挙げて適切な対処を行わねばならないと指摘、遺族への謝罪と被害補償を求めた。
遺族は、「娘の笑顔に私たちは癒され、励まされ、幸せをもらってきた。しかし、その笑顔は日に日になくなっていった。疲れ果てた様子の娘に何度も『もう辞めたらいい』と止めたが、娘は『そんなことをしたら上級生に何を言われるか、何をされるかわからない、もう怖くて劇団には一生行けない』と涙を流しながら必死に訴えてきた」とコメントした。
また「娘が何度も何度も真実を訴え、助けを求めたにもかかわらず、劇団は無視し、捏造隠蔽を繰り返した」と訴えた。