神戸市北区の路上で2010年10月、堤将太さん(当時16歳・高校2年)が殺害された事件で、殺人罪に問われた元少年(31・事件当時17歳、記事中では「男」と表記)とその両親を相手に、約1億5000万円の損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が22日、神戸地裁で開かれた。被告本人は出廷しなかった。
訴状などによると、男は2010年10月4日夜、神戸市北区筑紫が丘の路上で、堤さんを折り畳み式ナイフで突き刺すなどして殺害した。10年10か月後の2021年8月4日に逮捕され、翌22年1月に殺人罪で起訴された。
神戸地裁で開かれた裁判員裁判で男は「(将太さんに対する)殺意はなかった」として、起訴状の内容を否認し、弁護側は善悪の判断が著しく低下する「心神耗弱」状態だったとして刑の減軽を求めていた。
神戸地裁は、精神障害はないと断定、完全責任能力を認めて懲役18年の判決を言い渡したが、男はこれを不服として控訴している。
遺族は、「犯行当時未成年だった男が10年10か月逃亡していたのは、両親も“逃亡を手助け”していた可能性が高く、監督責任も問われるべき。今だに明確な犯行動機がわからないし、なぜ逃げたのかも知りたい。遺族としての思いは、賠償金ではなく、真実を突き止めたい」との思いで提訴した。
男は事件についての事実関係は認めているが、賠償金額について不服があり、訴えを棄却するよう求めるとみられる。神戸地裁は今後、非公開の協議を経て争点を明確にしていく。
将太さんの父親・敏さんは意見陳述で、「事件が長期化し、私たち遺族の不安や悲しみ、怒りは深刻だった。インターネット空間での誹謗中傷が私たちを苦しめた。また地域社会で『事件現場に供えられた花の始末をどうするんだ』『地域の治安が悪い』など.心ない言葉もかけられた。犯罪被害者は、こうした二次被害に苦しめられ、犯罪被害者等基本法に定められた『個人の尊厳』が重んじられることもなかった」と述べた。
敏さんは閉廷後、「『人を殺したこと』に対して、男は本当に向き合っていない。事実関係を認めたのなら、堂々と法廷に出て、反論があれば自身の意見を述べるべきだ」と怒りをあらわにした。