牡蠣の養殖を行っている各地で真牡蠣の水揚げが始まっています。夏に旬を迎え殻も身もボリューミーで牡蠣らしいクリーミーさを持つ“海のチーズ”こと岩牡蠣に対し、11月ごろから旬を迎える真牡蠣は小ぶりながらもより凝縮された味わいで“海のミルク”と呼ばれています。
さて、時期的にもスーパーなどでよく見かけるようになった真牡蠣の剥き身。気になるのが「加熱用」「生食用」とそれぞれ違う表記で販売されていることです。それぞれどのような違いがあるのか、兵庫県赤穂市東部の坂越湾で牡蠣の養殖・販売を行う光栄水産に話を聞きました。
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牡蠣の「生食用と加熱用の違いは鮮度」と、多くの人々が思っているのではないでしょうか。じつはそれは間違った認識で、正しくは「養殖海域の違い」と光栄水産は言います。
「生食用牡蠣の生育は、まずはじめに海域を指定することから始まります。食品衛生法をもとに海域の海水検査を定期的に何度も行い、細菌類の含有量(一般細菌数・大腸菌群・腸炎ビブリオ・ノロウイルス等)を把握、基準値に収まる海域のみが『生食用牡蠣を生育できる海域』として国から認可がおります」(光栄水産)
海域が認可されるだけでは終わらない、と同社。「認可されたら、次は実際に牡蠣に含まれている細菌数を検査していきます。剥き身牡蠣の検査は、毎週定期的に水揚げしたあとすぐに加工処理をし検査機関に送っています。殻付き牡蠣は、海底よりくみ上げた『地下海水』を各生産者ごとに導入している紫外線殺菌装置で殺菌処理、そこにシェルを24時間浸します。そうすることで牡蠣に含まれた不純物を循環・排出させ、より品質の高い“生食用殻付き牡蠣”として販売しています」とのこと。厳しい基準だけではなく様々な工程を経て、生食用はようやく出荷することができるのです。
一方、これらの厳しい規定を通過できない海域で養殖された牡蠣は「加熱用」として出荷されます。または養殖棚を河口から離れた沖合に出し、生食用として出荷できる規定値の海域で養殖する必要があるとのこと。
ここで誤認識してはいけないのが、必ずしも「基準値を満たさない海域=質の悪い海域」ではないということ。基準以上に細菌の含有量がある一方で栄養は高い海域であるということが多く、ここで育った牡蠣は早く成長し大粒で身入りが良いとされています。ただ、牡蠣は1日に300リットルもの海水を吸い込んでおり、栄養分の他にもさまざまな雑菌も取り込んでいます。そのため生食として食べるのは厳禁、加熱不足にも注意が必要となります。ですが生食用と同じく新鮮で、加熱さえすればおいしく食べられるのです。結果として、生食用か加熱用かは調理に合わせて選ぶのが良さそうです。
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共栄水産のある坂越湾は、厳しい水質検査をクリアしているのにも関わらず栄養分となる植物性プランクトンが豊富とのこと。「身痩せや味落ちもない」と、根強い“坂越牡蠣ファン”も多いそうです。本格的な出荷は11月後半に開始予定、来年2月ごろには旬を迎えるとのことでした。
(取材・文=宮田智也)