神戸・塩屋の洋館「旧グッゲンハイム邸」には、今日もさまざまな人が訪れる。異国情緒とレトロな風情を残すこの建物の管理人を務めて17年になるのが、森本アリさん。生まれも育ちも塩屋だという地元っ子は、“古きよき”を守りながらも、建物と地元のまちをいかす取り組みを続けている。

■なつかしくて新しい、塩屋というまち
山と海に挟まれた坂のまち・塩屋。駅前から続く商店街や、細い路地の入り組む住宅街は、どこか“昭和の残り香”が漂い、いま若者や子育て世帯からも注目を浴びている。
「車が入れないような(狭い道が目立つ)まちで、わりと震災の影響も受けず、(時間が)冷凍保存された感じもあり、『周回遅れのトップバッター』と表現されることも。観光資源がそれほど多くはないが、『なつかしい感じがする』『細い路地が散歩にいい』と、取り残されたがゆえに、価値を上げていった感じ」
■“ニセ・グッゲンハイム邸”でも、愛され続ける場所に
1908(明治41)年頃にイギリス人建築家A.N.ハンセル氏の設計で建てられたとされている洋館「旧グッゲンハイム邸」。かつてはドイツ系アメリカ人の貿易商が住んでいたとされてきた。しかし近年、実際には別の人物の邸宅だったことが判明した。
「築120年くらいの西洋館で、グッゲンハイムさんが住んでいたといわれるが、実は違っていて……。ライオンスさん(トルコ出身のユダヤ人)が住んでいて、グッゲンハイムさんの家は、ひとつ斜め後ろに今も現存している別の家だったというのが、この5年前くらいにわかった。だから、少なくとも50年くらい間違われていた」
森本さん自身、「旧グッゲンハイム邸」の名に執着はないそう。ただし、これまで親しまれた名前を「変えると申し訳ない感じもある」という思いから、「人には『実は違っていたんです。“ニセ・グッゲンハイム邸”です』と言いつつ、その名前を使っている」。そこには、地元やこの建物を愛する人々に寄り添う姿勢がある。
建物の保存活動は、森本さんの家族の強い思いから始まり、そこが森本さんが管理人となった原点。現在では、結婚式だけでなく、ライブや映画上映、落語会、夏の怪談会など、多彩なイベントが行われる地域の文化拠点に。森本さんいわく、「ゆるいオールマイティーみたいなところがある」のも、この洋館の魅力だ。
その使い道に、特段こだわりはないそう。「『この辺、こうしたほうがよくなるんかな』というくらいの気持ちで常にやっている」と、肩肘を張らない運営管理がモットー。それでも、「年内の土日はもう入れない」というほどスケジュールは埋まっているそうで、人々からのニーズは高い。







