《2》震災報道の検証 【11】今後の課題
【11】今後の課題
今回のような大災害の場合、被災者のラジオへの情報依存度は極めて高い。
それは、停電や通信手段の壊滅、交通網の途絶といった最悪の状況のもとで人々は唯一の情報源としてラジオを拠りどころとするからである。
このことから、被災地のラジオ局は、何をおいても、地域の人々の災害時のさまざまな情報ニーズに応えるための万全の体制をとり、人々の不安を取りのぞく安心報道を展開することだと言える。
今回のAM神戸の災害報道が地域に支えられたものであり、市民ラジオとして機能した教訓から、今後の私達の課題は、日常の放送活動の中で、地域にさらに密着し、防災意識を高め、万一に備える体制をつくることにある。
地域の人たちのいのちと暮らしを守る、あわせて、社員のいのちを守ることを大命題として、今後の大災害報道マニュアルつくりのための点検を行わねばならない。
その際の検討課題として以下のものが考えられる。
(1)社全体
最小人員の下でも初動体制がとれるシステム。
社員への連絡手段・非常呼集方法。
人員確保、特に徒歩で出社可能な社員の確保。
災害時の配置、任務の明確化と事前確認。
災害放送維持・継続のためのバックアップ・サポート体制。
ハード面でどこまでバックアップを設備しておくかの検討、また防災用の諸設備、機能 の充実。
重要書類などの危険分散。(F.Dによる分散管理)
災害時の社員全員記者化の確認。
個人判断でない災害時の行動基準の設定。
(2)報道実施面
電話ライン寸断の事態を想定し、行政、防災、ライフライン各機関との確実な連絡システム。
共同通信回線の断線の事態に備えた補完措置。
指揮系統の明確化、役割分担の明確化。
全体に方針や状況を把握し易くするための措置。
AMラジオとしての災害報道方針と基本的報道姿勢の確認。
情報入手方法、連絡ルートの再構築。
安否・生活情報など災害時の情報の編集方針の策定、及び整理・保存方針の策定。
リスナーとの対応(問い合わせ・苦情)体制。
緊急時の連絡システムの確立、及び人員配置・役務分担の明確化。
早朝・夜間の報道体制。
情報センターを中心とした集団報道、取材体制。
取材マニュアルの作成。
取材・レポート能力のある記者の育成。
取材面でのバックアップ、ニュース源の確保などの面からニュースネットワークへの加 盟の検討。
本社と出先との連絡体制。
中継器材の整備と保管。
(3)ハード面
放送用・連絡用のナローバンドチャンネルや中継用のワイドバンドチャンネルの割り当て増。
パーソナル無線の活用
兵庫県の防災無線(CS)の活用
NTT衛星回線の利用
ラジオ局へのEPUの使用認可。
最悪の事態を想定した技術的シュミレーション。
●演奏所
・オンエアスタジオが使用不能
他のスタジオに切り換える
・スタジオ切り替えのAPSが動作しない
スタジオ出力をSTLに直結(マスター) スタジオとSTL直結
・他のスタジオもまったく使えない
臨時コンソールを組む。 中継車を臨時スタジオに転用する
・中継機能に障害
ハイブリッド-他のスタジオのハイブリッド 可搬ハイブリッド
NTT回線の直結
中継アンテナ-臨時設置
無線受信機-予備機材の利用 連絡無線機の転用
専用線の障害-
●演奏所~送信所間の回線
・パラボラが倒壊、または傾いて使用できない
予備回線の活用(INS、専用線)中継用無線機の活用
・STL装置の故障
中継用無線機の活用、予備回線の活用
・リモコン不能
有線での予備系統
・最悪の場合、送信所から直接オンエア
マイク、アンプ、連絡方法、情報伝達方法、要員派遣
●送信所
・アンテナの倒壊
アンテナ1本での放送(通常は2基)
大型クレーン車による臨時アンテナの設置
車輌手配、組立、アンテナ整合などの問題
・同軸ケーブルの切断
予備ケーブルを設備に置く
・放送機の故障
可搬放送機で小電力でも放送
・送信所派遣要員の足の確保
フェリー運休時の船の確保
単車、自転車での送信所行き
●その他
・停電
非常エンジンの不起動 手動起動の方法
冷却装置、冷却水の確保
燃料の確保 開店しているスタンド、配達方法
・人員
非常時の自動出勤体制
呼出体制
(4)営業面
CM休止・中止広告主の早期復帰への手立て
被災広告主の減少に伴う、新規広告主の開拓
市場変動に伴う営業部員の再配置
中止イベントに代わる新規事業の企画・立案
(5)地域、他局
局別情報分担の可能性の検討など、近隣AM局との協力体制。
国際都市の地元局としての外人向け報道の検討。
地域リスナー ネットワーク作り。
地域防災計画でのラジオの役割の明確化。
行政サイドからの積極的情報提供とラジオ情報の行政サイドの積極利用の働きかけ。
(6)番組編成
災害時における番組取扱い基準の見直し。
継続的震災フォローのための番組編成と体制づくり。
防災面を意識した継続性のある番組編成。
(7)その他
CD、レコード棚の固定・強化。
取材班の身を守るヘルメット、ゴーグル、手袋等の整備。
携帯電話の活用。
ラジオ、及びマニュアルの常時携帯。
- 《3》震災直後の放送と取材活動の抄録 ①
- 《2》震災報道の検証 【11】今後の課題
- 《2》震災報道の検証 【10】被害状況