《3》震災直後の放送と取材活動の抄録 ①
《3》震災直後の放送と取材活動の抄録
[阪神大震災 AM神戸の緊急放送ドキュメント]
※これは、当時の同時録音テープをもとに、放送を時系列で整理したものです。
社の同録装置が地震で壊れたため、一部外部のエアチェックのテープを利用しています。
しかし、17、18、19、一部20日の放送の内、同録テープでの採録が不可能な時間が、おそよ9時間分あります。
ご了承ください。
1月17日(火)
・午前05時30分
「おはようラジオ朝一番」 ナマ放送スタート。パーソナリティは、月・火曜日担当の能崎まゆみ
・40分
「スポーツ朝一番」 のコーナーで、ヨットのアメリカズカップの話題などを紹介。
続いて、「お目覚め体操朝一番」 にうつる。
テープで、担当の野村健一郎氏の“寝たままできるエクササイズ”が流れる。
『~はい、それじゃあ右手からいきます。
ゆっくり右手だけを持ち上げて、天井です。
通過して、頭の上にのばします。
はい、今度は持ち上げて………』
・46分
同55秒に、地震のため、放送が停止(正確には、電波に音声がのらない無変調状態)する。
以後、放送停止は、13分05秒間続く。
社屋とスタジオの損壊が大きく、社屋内は停電、天井から水漏れ。
報道制作局等が入る大部屋の机や本棚全てが倒れ、コンクリート壁も大きく崩落、砂ぼこり。
主調整室と副調整室の機材もほとんどが横倒しとなる。
奇跡的に、オンエアスタジオだけが、防音ガラス等の損壊少なく、余震での
建物倒壊の危険を感じながら、ここから1週間に及ぶ震災報道を行う。
朝ワイドのスタッフら、11人は、2人を残して、外へ避難。
この内、一人のアルバイト女性スタッフが、レコード室で倒れてきたラックで頭を打ち、負傷。応急処置のあと、帰宅する。
残りのスタッフは、周辺の取材と、近隣の住民の誘導等に当たる。
技術スタッフが、放送復旧のための点検作業に入る。
淡路島のアンテナの無事と、本社放送施設が、緊急の処置で、何とか放送可能な状態が確認される。
自家発電装置を起動。
・午前06時00分 ◎
6時の時報入る。
6時半からスタートする 「まーるい地球と……谷五郎モーニング」 のアシスタント藤原正美がスタジオから放送再開。
雑音まじりの電波で、阪神大震災の震災放送がスタートした。
藤原『……しゃべりましょうか?……はい。
AM神戸のスタジオです。
スタジオが、現在、ただいまの地震で壊れております。
音声がとぎれております。情報が入り次第お伝えします。……
こちらは、AM神戸558です。
ただいまの地震のため、オンエアが途絶えております。
情報が入り次第お伝えしてまいります。
……どうぞ、皆さんも落ちついて、火の元を点検なさって。
……神戸の須磨のスタジオは、壁が崩れ、本棚が倒れ、机の上のものが散乱した状態になっております。
少しガス臭い気配もしますが、どうぞ皆様、落ちついてガスの元栓などを確認なさって、火の元も確認なさって、落ちついて行動なさってください。
(激しい息づかいとともに、かろうじて放送再開。藤原に、担当の丸山Dがトークバックで、しゃべる内容をひとつひとつ指示しながらの放送)
・06分
(外へ避難し、周囲を取材してきた谷パーソナリティが、スタジオに戻り、藤原と一緒にしゃべりはじめる)
谷『えー、僕も外から帰ってきたんですけれども、AM神戸の周りのマンションのブロックも崩れてまして、住民の方々が不安げに外に出てきておられました。
まだ真っ暗という状況で、マンションの崩れかけた部屋に閉じこめられた方もおられるようですが、脱出の方法がまだ見あたらないようで、とりあえずは部屋の中におられる………そんな方もおられるようです。
とにかく、AM神戸の中は、壁も崩れまして、建物もほとんどが倒れ、2階3階ですか、からの天井から水も漏れてきましたが、放送は一応できる状態に復旧したようです……
藤原『はい、外に出てみましたけれど、壁が崩れましが砂ぼこりなどが舞い上がっておりまして、夜明け前ですので電気も全部消えているという状態なんです。
真っ暗な中で不安げな住民の方が皆さん外にでていらっしゃるような状況なんです。
とにかく、火の元が気になるんですけれども、ちょっとガス臭いにおいもスタジオまで来ておりますけれども……
・10分
神戸市長田区に住む三上アナが電話をかけてくる。
直ちに、スタジオと結び、レポートを入れようとするがスタジオの回線不良でつながらない。
・13分
かろうじて一回線だけが生きていた共同通信の記事ファックスで、ようやく地震情報が入ってくる。
しかし、神戸の震度は入らず、姫路・大阪が震度4の中震と放送。
・14分
三上アナの電話による報告で、長田地区の火災発生の状況が判明。
このあと、繰り返し、各地の震度などを谷・藤原の両名が伝える。
・17分
社員や関係者に、電話で被災状況のレポートをするよう要請の放送。
・18分
朝ワイドレポーターの旭堂南海(東大阪市在住)から電話はいる。
大阪でもかなりひどい揺れであったとの報告。
・20分
放送中にスタジオで地震にあった能崎がスタジオに復帰。
その瞬間の模様などをレポート。
・22分
神戸須磨区に住む岩崎アナが車で出社、スタジオへ。
ここで、はじめてニュース形式の地震原稿を岩崎アナが読む。
続いて、周辺の状況と、自宅から社までの被害の模様を報告。
震源地は、淡路の先端らしいと放送。
福井、鳥取、松江など広範囲に強い揺れの大規模地震らしいことが徐々に判ってくる。
・26分
震源地近くの垂水区に住む国広アナから電話入る。
自宅周辺の状況を報告。
・28分
余震が頻繁におきる。
・30分
藤原が、月見山駅周辺まで歩いて取材。
家屋倒壊多数、生き埋め多数 。
その模様をしゃべる。
・36分
長田、兵庫区で家屋の倒壊が多数という情報が入る。
・39分
岩崎アナらが、被災地の人たちに、広い場所に避難するよう呼びかけ。
また、出勤途中だった社員からの報告で、JR各線や、大阪の地下鉄や環状線、新幹線など、交通機関が不通の情報はいる。
この時点では、崩落した阪神高速道路神戸線の被害はまだ不明のまま。
大きく損壊したAM神戸の社屋の内部の様子を報告。
・41分
地震の被害が広範囲に及び、規模はマグニチュード7. 2、震度6の烈震が神戸であるとの情報がはじめて入る。
全国各地の震度などを放送。
規模の大きさが徐々に判明。
・43分
近畿各地の交通機関の不通状態を繰り返し放送。
(同録装置損壊のため、以後の分のテープなし。採録不能)
(午前7時前には、長田区日吉町から、ラジオカーの現地レポート第一回が入る。その時のテープが現存せず、採録不可能)
・午前07時18分
スタジオでは、長田・兵庫区内での家屋の損壊や地割れなどについて報告が続いている。
・21分
ラジオカーで長田区方面へ出かけた三枝記者とつながる。
三枝『はいはい、聞こえますか?私はすこし移動しまして、長田区の若松町、
若松町11丁目の火事現場の目の前にきています。
時折、小さな爆発が起きてですね、10丁目あたりから、順に西へ大きく広がっておりまして、私のすぐ目の前、およそですね、200メートルぐらい全部火に包まれております。
ただ、消防車は、まったく一台も来ておりません。
火災です。大火災の状況です。
このままいきますと、あたりが倒壊した家屋、木造家屋ばかりですので、延焼が避けられない状況です。
・26分
このあと、三枝記者は、目の前で、家の下敷きになった息子を延焼の炎の中に残して見殺しにせざるをえなかった住民のインタビューを現場中継。
三枝『……それからすぐ近くにこちらの住民の方で、手に大けがをされているかたがいらしゃるんですが、これどうしてけがされたんですか
住民『ガラスで…
三枝『ガラスが割れて?おけがはそれだけですか?
住民『手だけやね
三枝『そうですか……この火事はいつ頃からでたんですか?
住民『これ、どんなんやろ……地震が揺れだして間なしやからもう、ちょうど10丁目のその角の家から2軒目のその裏の裏から新しいけどね、そこら近辺から火の手が上がって、私の家は全焼してしもたけどね。
三枝『全焼したんですか?どこらへんですか?
住民『10丁目です
三枝『10丁目ですか。で、家族の方は?
住民『息子が一人、もう死んでと思うね。下敷きになって、出されんかったですわ。
三枝『息子さん?何歳?
住民『38歳か……
三枝『まだ安否がわからない?
住民『もう焼けたから、もう死んだと思いますわ………
三枝『はー………谷さん
住民『もうちょっとね………足が出てるんやけど、あとがでなかった………
それに………
三枝『お父さんは足までつかんで息子さんを引っぱり出そうとしたけれど、なにかの下敷きになったんですか
住民『そうそう、その内に火が来たもんやから、“おやじ、逃げてくれー、言うて………
三枝『息子さんがそうおっしゃった、はーっ、そのままで
住民『目の前で見殺しですわ、だから、この火事さえなければ助かったんやけど
三枝『そうですか………谷さん、という状況でしてね、とにかく、なんとも表現の出来ない状況が目のあたりです。
すぐ10メートル先で火は燃えさかっておりますので、このままでいきますと、長田の若松町界隈は、きわめて悲惨な状況になるのではないかと思われます。
まだ消防車は一台も来ておりません。
谷『まだ来てませんか………
その内容は、スタジオと聴取者に、被害のすごさとむごさを伝えた。
この現場レポート以後、17日と18日の両日のラジオカーチームは被災した人々のレスキュー報道を、データを中心に行うこととなる。
被災した人たちにマイクを突きつけることは避けた。
激甚被災地へ入ったラジオカーチームは、このあと、長田区若松町一帯を、中継器を肩に徒歩で移動し、丁目番地などのデータを中心にした“SOS放送”を断続的に行う。
10階建てのマンションの踊り場から、真下の火の手の拡大状況と、避難を呼びかける放送を行い、現場から退避した。
(以後、同録テープがなく、約40分間は、採録不可能)
・午前8時10分
阪神高速神戸線の橋脚のコンクリート柱が大きく損壊しているとの情報を伝える。
この時点では、東灘区の阪神高速高架の倒壊の情報はまだ入っていない。
・12分
JR須磨駅周辺のの被災状況を、取材した社員が報告。
・13分
震源地近くの明石海峡方面に向かうラジオカーからのレポート。JR垂水駅前でガス漏れがあり、通行止めとなっており、国道2号線が渋滞しているとの報告。
ラジオカーから、ガスも元栓を閉めて避難するよう繰り返し放送。
・16分
東灘区深江で、阪神高速の高架が倒壊したとの目撃情報を放送。
その他、神戸・大阪の交通関係の情報を放送。
・18分
スクーターで取材中の谷部ディレクターが、神戸兵庫区の道路の陥没や、水道管の破裂などの様子を現地からナマレポート。
道路の陥没現場には、自動車が落ち込んでいると報告。
・22分
神戸市灘区六甲町で、大規模火災が発生し、住民は六甲小学校に避難していると放送。
西宮消防局の情報として、市内で多数の家屋倒壊が発生、生き埋め多数。
芦屋警察署からの情報、市内72ヶ所で建物倒壊、200人以上が生き埋めになっている。
・28分
安否情報 16件分伝える。
・31分
須磨区の自宅から山本和子ディレクターが出社、スタジオで状況報告。
交通渋滞のため、回り道をしたが、動かないため、垂水の塩屋付近で車を乗り捨てて、徒歩。
スキーバックに身のまわりのものを詰めて避難する人たち。
・34分
震源地へ向かっていたラジオカーの三枝記者から報告。
垂水駅前で、ガス爆発があった模様。(後日、垂水ではなく塩屋と判明)
このため、国道2号線は上下線とも通行止めになっている。
コンビニエンスストアの前には長い行列。
食料品や電池を買い求める人たち。
藤原アナが、これまでに入った被害状況をまとめて伝える。
街にスクーターで取材に出た谷部ディレクターからの報告では、兵庫区の大開通りでは、道路の半分が大きく陥没して、水道管も破裂、車が落ち込んでいるとの報告。
灘区の六甲町では、大きな火災が発生している。
西宮や芦屋での倒壊家屋の下敷きになった人たちが多数救助をまっているとの放送。
安否情報 16件
・39分
神戸新聞淡路総局に電話がつながる。
総局デスクに震源に近い淡路の被害の状況を聞く。
この時点で死者2人を確認、一宮町、北淡町、津名町での被害が大きいとの情報。
火事の発生は、少ないとの情報。
安否情報 12件
・43分
阪神高速高架の倒壊の詳細入り、ニュースとして繰り返し放送。
・46分
南海電車が関西新空港の連絡橋上で立ち往生し、乗客が閉じこめられているとの情報。
この他、神戸中央区のビルの倒壊の状況を放送。
・48分 ◎
安否情報 6件
地震から3時間経過。
スタジオキャスターが、『太陽がはっきり見えないほど、外は、一面くすんで見える、夜明け前の空の状況だ』と報告する。
安否情報の続報6件
安否情報の受付電話番号を繰り返し放送する。
また、その受付の内容や、趣旨も放送する。
安否情報 続報15件
・午前09時00分の時報 ◎
スクーターで取材中の谷部Dとようやく電話がつながる。
兵庫区の湊川周辺の被災の状況や、JR鷹取駅近くの火災の状況、新開地の家屋倒壊の状況などを現場レポート。
火事の多発で、消火がまったく追いつかず、住民がホースで消火している状況を報告。
・03分
安否情報 14件伝える。
・05分 ◎
淡路島の北淡町役場の情報として、同町の被災の状況を放送。
・07分
神戸中央区の兵庫県警生田警察署に到着し、取材した三浦アナと電話がつながる。
生田署が停電していること。
神戸市内での確認された死者数が、須磨2人、有馬1人など合わせて8人であることを伝える。
阪神高速神戸線の橋脚倒壊や、阪神高速湾岸線の西宮大橋の落下、JRの脱線事故などの情報を報告。
須磨の本社から、三宮への道路沿いの被災状況を、順に報告。
市民の目撃情報として、県庁南のレンガ造りの栄光教会が倒壊している旨放送。
・10分
さらに、今入った情報だとして、阪神電車が大石駅と新在家駅間で転覆して、多数の乗客が閉じこめれているとの情報を伝える。
・14分
神戸市垂水区の男性リスナーからの電話での情報。
この方の自宅周辺の状況を伝える。
垂水区のこの地区の停電は復旧したとのこと。
・16分
安否情報 25件放送
・20分
JR西日本の情報として、新幹線の橋桁が、明石から大阪間で少なくとも5ヶ所落下していると放送。
安否情報 13件
・24分 ◎
地震関連の情報とニュースをまとめて放送地震発生から、3時間半あまり経過。
・28分
安否情報 12件
近くの広い場所にすぐに避難するよう繰り返しよびかける。
この頃、震度3クラスの余震が続く。
・30分
道路が各地で分断、緊急自動車が通れない状況だと放送。
午前9時現在の県下の死者は17人と県警が発表。
各地の震度放送。
マグニチュード7.2。
神戸と洲本が震度6の烈震。
安否情報 2件
・33分
震度の深さ、約20キロと判明。
交通関係の不通の情報をまとめて放送する。
・35分 ◎
安否情報 7件
・37分
余震が頻発している。
火災防止にガス対策と火の気を使わないようにとスタジオから何度も呼びかけ。
地震による被害は、想像以上であることが徐々に判明していく。
安否情報 12件
・39分
屋外へ避難した人たちへ、近くの公園や学校に避難するよう呼びかけ。
余震への対策を放送。
安否情報の電話番号を放送。
安否情報 9件
スタジオまで、火事の臭気が入り込んできている旨放送。
この時点でも、AM神戸は、停電、自家発電による放送継続中。
アースの加減か、マイクのスイッチをいれると、ムーンというハムがのる状態での放送。
車での避難は避けるように呼びかけ、公園や学校への避難を呼びかけを繰り返す。
・41分
地震の震源地が北緯34. 6度、東経135度と正式に発表される。
県警情報として、午前9時現在の地震による死者が17人と発表される。
安否情報 2件
指定されている避難場所にこだわらず、安全と思われる場所へ避難するよう呼びかけ。
余震がつづいているため、落ちついて行動するよう呼びかけ繰り返す。
・43分
スタジオの谷パーソナリティらが、地図で、震源地を確かめる。
神戸は、直下型地震に直撃されたようだと放送する。
神戸市内の陸の交通機関は壊滅状態だと放送。
安否情報 7件
安否情報 3件
神戸市内で、倒壊した建物で350人が下敷きになっているとの情報を放送。
45ヶ所でガス漏れも発生しているとのこと。
・45分
震源地の明石方面へ移動中のラジオカーからの報告海峡大橋は無事。
国道2号線は、ガス漏れの規制のために長い渋滞垂水界隈の被災状況は、長田周辺に比べて軽微。
コンビニエンスストアには、長い列が出来ている。
このレポートで、被害は、須磨より東に集中しているとの判断が出来た。
安否情報 5件
- 《3》震災直後の放送と取材活動の抄録 ②
- 《3》震災直後の放送と取材活動の抄録 ①
- 《2》震災報道の検証 【11】今後の課題