黒川検事長の定年延長を決定した2020年1月31日の閣議の議事録によると、8時21分~8時35分のたった14分間で、国会提出案件31件・法律公布3件・法律案2件・政令3件・人事4件・配布1件が審議、決定されている。閣議決定とは名ばかりの「官邸主導」による超スピード審議である。事前配布資料があったとしても審議案件の問題点すらわからず、反対はおろか質問すらできない状況が議事録を見ればわかる。
議事録上では定年延長に関する部分は30秒もかからない簡潔な説明で、質疑応答は一切なし。閣議全体が14分だから、もともと質疑応答の時間などないのだろうけれど。当然ながら、国家公務員法の規定について検察庁法との関係で大きな解釈変更を伴うことにはまったく触れられていない。
■そこまでして「黒川氏」に固執しなければならなかったのか?
そもそも法務省が従前の法解釈(検察庁法には検事総長65歳・検察官63歳と定年について別段の定めがあり、国家公務員法における定年や定年延長の条項は適用されない)をわざわざ根底からひっくり返してまで、黒川氏の定年延長をみずから提案することなどあり得ない。
そこまでして、黒川検事総長を実現しようとする「意見・提案」が法務省サイドから出てくる理由が一切ないからである。
どれほど重要な事件の捜査や公判の真っ最中であっても、検察トップは定年退職と同時に交替するのが常識である。黒川氏の定年延長の理由は「管内で遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査・公判に引き続き対応させるため」とされているが、「余人をもって代え難し」などという論理は検察内部には存在せず、逆に、誰が検察トップでも起訴すべき事案は起訴、不起訴にすべき事案は不起訴……という的確な判断ができる組織でなければならないのである。本来、検察官の誰もが同じ職務を遂行して同じ成果を出すことが求められ、代わりの効かない存在はいないという「検察官同一体の原則」を忘れてはならない。
安倍政権にとっては「黒川検事総長の実現」のみならず、検察庁法改正により、これまで難しいとされた「検察人事権掌握」のカードを将来にわたって握る好機だったように思う。現時点では「選挙が遠い(2021年まで衆議院選挙がないだろうとの算)」ので、多少無理(強行採決)をしてでも、さっさと改正法案を通してしまった方が得策との判断である。次の選挙までには「民意」も変わる、つまり「強行採決」のことも忘れ去られるとの読みだったのだろう。
しかし、誰も予想だにしなかった記者との「賭け麻雀」問題で黒川検事長が失脚する羽目になったため、これを事前に察知した官邸は強行採決はおろか、改正法案そのものを廃案とせざるを得ない状況に追い込まれた。