憲政史上最長となった7年8か月の第2次安倍政権が終わる。「外交の安倍」とも称されたが、印象としてトランプ・米大統領との蜜月関係を挙げる人も多いだろう。一方で政権の後半では旧・徴用工問題や韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射などを機とした日韓関係の悪化を象徴する変化もあった。戦後最悪とされた日韓関係はどこへ向かうのか。神戸大・大学院教授の木村幹さん(比較政治学、朝鮮半島地域研究)に聞く。
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■まず安倍首相とトランプ・米大統領、「シンゾウ・ドナルド」の日米関係は本物だったのか?国際舞台での安倍首相の存在感とは?
やはりトランプ大統領は安倍首相を信頼していたように思う。トランプ氏からすると、あれほどまでに熱心にアプローチする世界の指導者は安倍首相ぐらいだった。カナダしかり、ヨーロッパ各国の首脳がトランプ氏と距離を置く中で、サミットをはじめ、トランプ氏はさまざまな場所で安倍首相の存在は心強かったのではないか。
こと外交に関して言えば、長期政権は圧倒的に有利である。サミットや国際会議で、各国首脳が顔を知っていて経験があるのが大きい。ヨーロッパでドイツのメルケル首相(2005年11月~)が大きな存在感を示すのは「ずっといる」から。トランプ大統領は国のリーダーとして登場してまで4年弱の新参者に過ぎず、そこで「シンゾウ」が一緒にやってくれる、というのは助けになったはずだ。
「安倍首相は外交に対して影響力がなかった」という日本国内での評価もあるだろう。しかし第2次安倍政権が生まれる前、約1年おきに政権が変わった時期を思い起こせば、それなりの存在感があって、それなりの役割を果たしたことは否定できないと思っている。
■対朝鮮半島外交ではどうだったのか?
これから先、10年後、20年後ににわかることになると思うが、安倍晋三という人物は、日本の首相として対韓国、対北朝鮮といった朝鮮半島への強い関心を持った最後の存在と評価されるのではないかと思う。安倍首相の対朝鮮半島の外交は、一言でいうと「古いレシピを持ってやって来たシェフ」というイメージ。後継候補の名が挙がる3人が、何かしらこの2国に特段の関心があるようには見えない。何よりも安倍首相自身が1960年代の親韓派の巨頭とされる岸信介氏の孫ということもあるし、第2次安倍政権がスタートした時の韓国では朴槿恵(パク・クネ)氏が大統領だった。安倍首相は岸信介氏からの流れを汲み、朴槿恵氏と親交もあった。だから日韓関係は安泰だ、うまくやれると言われていた。拉致問題に関しても安倍首相自身、自分がよく知っている、自分がやってきたという気持ちがあった。結果的には対韓国、対北朝鮮は満足のゆく結果とはならなかったが、第1次政権を退いてからの菅直人氏、野田佳彦氏、麻生太郎氏などに比べると、方向性が良かったかどうかは別にして、さまざまな手を打ってきた印象は強い。