旧優生保護法・兵庫訴訟原告で、兵庫県明石市に住む夫(89)と妻(88)はともに聴覚障害がある。妻が1960年ごろに受けさせられた中絶・不妊手術で、授かった子を失った。3日の神戸地裁判決は、提訴までに20年の「除斥期間」が経過したとして請求を棄却。「まったく理解してもらっていると思えない。これは差別だ」。夫は判決後、激しい怒りをにじませた。神戸地裁での夫妻の証言を振り返る。
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夫婦はお見合い結婚。1960年から夫の実家で暮らし始めた。間もなく妊娠が分かると2人の母親が相談し、妻は翌日、実母に連れられ病院へ行った。説明もないまま麻酔を打たれ、目が覚めると手術は終わっていた。妻はその時、おなかの子がいなくなっていることを悟ったという。
帰宅して泣き続ける妻。夫は妻の下腹部にある大きな手術痕を見て怒りを爆発させた。自身の母親を問い詰めたが「私が悪いなら殺せばいい」と言い返され、それ以上何も言えなかった。その後、夫妻がこの事実を公の場で語ることはなかった。
妻は「私の体を元通りにしてほしい」と悲痛な思いを訴えてきた。判決後の記者会見で「以前は手話通訳もおらず、裁判で訴えることができただろうか。でも、これからも頑張る」と通訳を通じて、涙ながらに改めて決意を示した。
原告夫妻を支援する明石市の泉 房穂市長も傍聴に駆け付けた。泉市長はラジオ関西の取材に対し「ご夫婦のこれまでの気持ちを考えれば、居ても立ってもいられなかった」と話した。そして判決後、「障害者に冷たく、国会議員に甘い判決だ。自らも弁護士だった経験で言わせてもらうと、20年の排斥期間という壁は、法律を変えれば乗り越えられる」と力を込めた。
明石市は全国初の「旧優生保護法・被害者支援条例」を検討、泉市長は「9月議会で上程したい。 全国の自治体にも呼びかける」と誓った。