神戸市北区で2017年7月、祖父母や近隣住民ら5人を殺傷したとして殺人や殺人未遂などの罪に問われた無職の男性被告(30)の裁判員裁判の判決で、神戸地裁は4日、無罪を言い渡した。
男性は罪状認否で事実関係は認めたものの、弁護側は事件当時、統合失調症により善悪を全く判断できない「心神喪失状態」だったとして無罪を主張、検察側は「善悪の判断や行動を制御する能力は低下しているが、(一部は)残っており、心神耗弱状態だった」と無期懲役を求刑していた。
最大の争点は男の刑事責任能力の有無だった。 複数人が殺傷された重大事件で、被告の刑事責任能力を否定し無罪とするのは異例とみられる。
審理に加わった裁判員、心理的な負担は大きい。閉廷後、このうち40代と30代の男性(補充裁判員含む)が取材に応じた。
■判決を終えて
「世間の方々をはじめ、遺族や被害者にとって納得できない結果かもしれないが、法律に照らし合わせた結果、『心神喪失である』との判断で無罪となった」
「裁判員裁判に参加して、さまざまな考え方があることも知ることができた」
■男性(審理中は被告)と法廷で対面して
「見た目はおとなしそうだと思った。法廷で男性はまっすぐ前を向いたまま。ただ表情は豊かとはいえずではなく、最初は被告人質問で何を聞こうか、迷いがあった」
「初公判の日は怖かった。しかし審理が進むと心の余裕が出て、おとなしい、まじめな人だと感想が持てるまでになった」
■精神鑑定で見解が分かれたが?
「(検察側の依頼した鑑定医2人の見解について)それぞれの接触時期が異なったために鑑定結果が異なったのかと思う。世間全体で、統合失調症という病気への理解や、精神科医療についての整備や関心が必要なのかと思った」
「アメリカの陪審員制度(裁判官から独立して陪審員だけで議論して決める)とは違い、裁判員制度という枠組みで、法廷で出た情報で有罪無罪、責任能力についての結論、法律の中で決める難しさがある」