ずっと弱かった。「ほんまに優勝するんだろうか?という気持ちがずっとあった。今、眠りから覚めて『今日の時点では5位だよ』と言われても信じてしまうよね」。低迷期が長く、昨年も最下位。あまりにも状況が変わりすぎて、こんなにうまく行くことってあるのか?という気持ちもあるが、中嶋聡監督はじめコーチ陣の手腕はすごいな、というのが率直な気持ちだという。
木村さんに優勝した要因は?と聞くと「雰囲気、ムード!」と即答。実は昨年(2020年)前半までのゲームを球場で観戦していると、ベンチの雰囲気がとても暗かったという。「あの時、声は全然出ていないし。常に沈滞しているイメージ。ミスやエラーがあるとファーム(二軍)行き、という流れだったように思う。それがなくなってからチームは変わった」と振り返る。
「大学院生を教えている立場で言うと、野球選手は学生とほぼ同世代。大学卒のルーキーは修士課程の学生。僕の経験上、20代の学生は褒めると飛躍的に伸びる。チャンスを与えて、そこで結果を出したときに(中嶋監督は)すごく褒めているんだと思う。ダメなときに選手を叩くのは簡単なこと」
例えば、中嶋監督はショートの紅林弘太郎選手(2019年ドラフト2位・内野手 19歳)にずっと付きっきり。これ、ひとつ間違えると他の選手から一気に不満が出る。ベテランが文句を言っても不思議ではないし、同じ内野手で1年上の太田椋選手あたりから「なんでアイツばっかり」と言われそうなものだが、「(優勝という)結果をみると、うまく配慮しているのだと思う。若手を積極的に起用する一方でベテランは腐らさず、という流れを作っている。世代交代をうまく進めている印象がある。やはり雰囲気づくりは大事だ」と話す。
中嶋監督はキャッチャー出身、阪神の矢野燿大監督も、ヤクルトの古田敦也元監督もそう。守備の要として唯一、ホームからグランド方向を向いている。古くは野村克也さんに森 祇晶さんもキャッチャー出身。「それだけに、全体を見渡せる。いわば中嶋監督はキャプテン的な存在かも」との監督評。
そして「中嶋監督自身が多くの球団(阪急・オリックス→西武→横浜→日本ハム)を渡り歩いて、仰木彬さんや東尾修さん、栗山英樹さんなど、さまざまな監督を見てきて、その時その時の苦労もあったと思う」と察する。
「来シーズン以降、どんなチームになるかはわからないが、今はすごくうまく循環しているし、選手を育てることに関して自信があるんだなと思った。指導者のポジションは本人が自信持たないと、後ろはついて来ない。うまく循環している時は何をやってもうまく行く。それは運がいいという意味ではなく、雰囲気が良いとみんながポジティブになるんですよ」。オリックスの若手選手らが、教え子の大学院生に重なる。木村さん自身も、大学教授としての心境は監督・コーチと同じだという。