旧優生保護法をめぐる訴訟で大阪高裁が22日、全国初の賠償を命じた。原告側が「戦後最大の人権侵害」と主張する被害の救済の在り方が改めて問われることになった。
大阪訴訟の原告である70~80代夫婦は1974年、妻が帝王切開で子を出産した際、知らぬ間に不妊手術を受けた。女性は日本脳炎を患って後遺症で知的障害になり、1965年ごろ不妊手術を強いられた。
「原判決を変更する」。大阪高裁の法廷で裁判長がそう読み上げ、手話通訳が伝えると、男性は一瞬驚いた様子を見せ、顔をほころばせた。弁護士2人が建物から駆けだし、「請求認容」「原判決取り消し」。仙台地裁で一連の訴訟がスタートして約4年。垂れ幕を高々と掲げ、賠償が認められたことを伝えた。
この日の法廷には車いすの支援者らも訪れ、傍聴席の3分の1に当たる30席を取り払ってスペースを確保した。裁判長は判決の骨子をゆっくりと読みあげた。聴覚障がいのある人も内容を理解できるよう手話通訳が配置され、要約された筆記をリアルタイムで映し出すモニターも設けられた。
「長かった。このような判決が得られてうれしい」。聴覚障害がある原告の80代男性は顔を紅潮させ、懸命に手話で伝えた。「私たちの訴訟のような判決が続くよう、一緒に闘っていきたい。被害を受けた人みんなの悔しさ、無念が晴れるように」。不妊手術を受けた70代の妻も手話でメッセージを発した。
男性はマスク越しでも笑顔が伝わる。「国は上告しないでほしい」と求めた。妻は「私たちは耳が聞こえない夫婦だったが、子どもを産み、育てたかった」「どんな人でも、同じように子どもが産めるような社会になってほしい」と求めた。
原告弁護団の辻川圭乃弁護士は「人権擁護の最後の砦(とりで)として、司法府の役割を果たした。裁判官が思いをくんでくれた」と話した。
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神戸、大阪、東京、仙台など全国9地裁・支部に起こされた一連の訴訟で、旧優生保護法の違憲性と国の賠償責任をいずれも認め、原告側が勝訴したのは初めて。一審判決はいずれも賠償請求を退けて原告側が敗訴している(4件の違憲判断)。 3月11日には東京高裁で控訴審判決が言い渡される。
「本当に良かった。被害者に寄り添う判断だ」。一連の訴訟で2018年1月に初めて提訴に踏み切った宮城県の60代の原告の女性を支える義理の姉は、興奮した様子で語った。
「被害者・家族の会」共同代表を務める東京都に住む70代の原告の男性は「人生をめちゃめちゃにされた。お金の問題ではない。これを機に、国は被害者全員の目の前で頭を下げて謝ってほしい」と願う。
後藤茂之厚生労働大臣は22日、「主張が認められず、国にとって大変厳しい判決だと受け止めている。判決の内容を精査し、関係省庁と協議した上で適切に対応したい」と述べた。
■「勝訴判決を勝ち取るべく、全力尽くす」兵庫訴訟弁護団が声明