仁和寺は1994年に世界文化遺産に登録された。国宝12点、重要文化財47件、その他の宝物など2万点以上が保有されている。2012年ごろからデジタルデータの有効性に着目、文化財の正確な記録のためデジタル化を進めている。このうち「戊辰戦争絵巻」上下巻のデジタル彩色画が2021年に完成した。もとはモノクロの木版画だが、彩色によってリアルに当時の戦いのシーンが鮮明によみがえった。
文化財のデジタル保存に取り組む「先端イメージング工学研究所」(代表理事・井手亜里(いで・あり)京都大学名誉教授)が全長計約40メートルもの絵巻を高精細スキャンで取り込み、デジタル化を進めて彩色した。約100倍に拡大した画像にコンピューター上で彩色する地道な作業で、約1年の制作期間を経た。
絵巻の中で繰り広げられる激動の幕末維新物語(戊辰戦争は1968~1969年)、もともとは書物にしたらどうか、という話だったが、時の(明治)天皇は「勝ちと負け」に終始する史観を好まなかったとされ、そこで絵巻となったという。この絵巻に2022年1月、息を吹き込んだ女性がいた。
講談師・神田京子さん。仁和寺では普段は立ち入ることのできない国の登録文化財「宸殿(しんでん)」の座敷で繰り広げられた講談ライブ。軽快な語りでの解説は、一部オンラインでも配信された。
「フランス革命は6年間、(アメリカの)南北戦争は4年間。尊い命の犠牲はあったとはいえ、戊辰戦争はたった1年で一国がひっくり返るような大改革、根底には『やったらやり返す』ということを好まない民族性、日本人が長きにわたって大切にしてきた『和の精神』。そうした先人の思いを、決して忘れてはいけない。わかり合うことができないと、悲惨な戦(いくさ)になる、そういった教訓をこの絵巻から学びたく存じます。コロナ時代を生きる日本、誰かを責め、奪い合うのではなく、与え合う和の精神を再び取り戻したいものです…」。不安感がよぎり、とかく”人のせい”にしがちなコロナ禍、これではいけない。神田さんは講談をこう締めくくった。

