機動隊では、大地さんが自殺した前の月にも同僚(当時23歳)が自殺している。事態を重く見た兵庫県警は当時、隊員ら約128人へ聞き取り調査を行ったが、パワハラやいじめはなかったと結論付けている。大地さんの父親・一仁さんはこの調査結果の開示を求めたが、ほぼ黒塗りの資料が提示されたため、強く憤りと疑問を感じ、真相を知りたいと思うようになった。
そして2017年10月、一仁さんら遺族が地元・広島地裁に提訴し、同年12月に兵庫県警のある神戸地裁へ移送された。第1回口頭弁論は2018年3月に開かれた。一仁さんら遺族にとって、ほとんど証拠がないままのスタートだった。
なお、その後の情報開示では、このうち40数人が機動隊内でのパワハラやいじめについての存在を認めていたとの情報をつかんでいたという。
2021年12月、先輩だった警察官が証人として出廷し、大地さんに「ボケ」「やめてしまえ」と言ったことは認めたが、「あくまでも指導の一環だった。それ以上は思い出せない」などと述べた。
被告の兵庫県側は「配慮を欠く言動はあったが、上司らによるパワハラやいじめは存在せず、自殺との因果関係はない」と主張、改めて請求棄却を求めて2022年3月に結審した。
「大地に非があるのならば、私たち遺族が素直に謝罪すべきだが、兵庫県警側に何らかの落ち度があるならば、事実を明らかにしなければ」一仁さんはその思いで裁判に臨んだ。
神戸地裁は22日の判決で、先輩隊員の一部の言動について、パワハラ行為であると認めた。大地さんのうつ病の発症も認定されたが、自殺に至るまでの因果関係は認められないとした。「カンニング疑惑に関する、大地さんへの先輩隊員の言動は、指導の範囲を超えたもの不適切なものであり、一定の精神的負荷を与えるものだったが、うつ病を発症したと考えられる時期よりも、相当前の時期だった」とした。
原告代理人の市川守弘弁護士は、この判決について「パワハラの度合いについての評価(認定)に問題がある」と述べ、「判決でうつ病と自殺についての因果関係がないとされたが、逆に別の要因があったのかどうかの精査もない。司法のブラックボックス化は否めない」とした。
うつ病を発症した際に診断した医師の意見書などがあれば立証しやすいが、ここにたどり着くまでのハードルは高いという。
父親の一仁さんは提訴前から、ラジオ関西の取材に一貫して「大地は子どものころから警察官になるのが夢で、本当に警察が大好きだった。若くして自殺する警察官がいるなんて考えられない。何らかの”闇”があったはずだ」と話す。
「広島へ帰省してパワハラを受けた事実を私に明かし、『機動隊は腐りきっとる。何とか体質を変えてやるんや。少しでも風通しの良い職場にする』と大声で泣きながら訴えかけてきた」と振り返る。
そして、「だからこそ、私が大地の代わりに組織(兵庫県警)を変えたい。最愛の息子の無念を晴らすため、真実を知るための裁判だった」と述べた。