【中将】 たしかにさださんは当時としては歌詞の文字数多めな作風です。口語調も多めに取り入れてるし、そういう点では現代ありがちな作詞スタイルの元になっているのかもしれませんね。クオリティーはさておいて。
この曲は都会でひとり暮らしを始めた弟を雪の中の案山子に見立て、故郷のお兄さんが愛情のメッセージを送っているという内容なんだけど、こういう生活に基づいた心の機微を描かせたらさださんの右に出る人はいないんじゃないかな。ご本人も後年、インタビューで「僕は歌つくりなのだから、実生活では言えない言葉を代わりに言ってあげるくらいの強みを見せないと歌うかいがない」とおっしゃってますが、まさにそのあたりの強さが絶妙なんですよね。
【橋本】 深いですね……私も意識していきたいと思います!
【中将】 ここまで男性の歌詞が続きましたが、お次は女性の歌詞を紹介したいと思います。荒井由実(現・松任谷由実)さんで「ひこうき雲」(1973)。 小学校の同級生だった男の子が筋ジストロフィーとの闘病の末、亡くなってしまったエピソードをもとに作った曲です。
【橋本】 これは……最高です。実はこの曲は一度ライブでカバーしたことがあるんですが、歌詞を読んでその背景を調べると、よくこんなつらい体験をこれだけ美しく表現できたなと衝撃を受けました。
【中将】 ユーミンさん独特の瑞々しい表現力ですよね。悲しい内容なんだけど、べったりしない。個人の感情を超越した見地からストーリーを描いてるような気がします。
ユーミンさんは中学時代から芸術家やミュージシャンのサロンになっていたイタリアンレストラン「キャンティ」やディスコに出入りしていて、15歳の時、元ザ・タイガースの加橋かつみさんに「愛は突然に」(1971)を提供して“天才少女作曲家”として知られるようになりました。
【橋本】 ませてますね……! 早熟! ユーミンさんは年代ごとにヒット曲がありますが、いつの時代も若者に響くフレーズを生み出しておられるのはとんでもないセンスだと思います。
【中将】 お次で最後の曲になります。竹内まりやさんで「駅」(1987)。
【橋本】 この番組で知って、大好きになった曲です。1番だけでもすごく深いんだけど、2番を聴くとさらに膨らんでいく構成が巧みだなぁ……と。
【中将】 駅の人混みの中で昔の恋人を見かけた……というありふれた設定なんだけど、そこでこみ上げてくる複雑な感情の表現が絶妙ですよね。
もともとは中森明菜さんのために作った提供曲で、テーブルに明菜さんの写真を並べて「せつない恋物語が似合う人」だとイメージを膨らませて作ったそうです。2番の最後の「私だけ愛してたことも」という歌詞の解釈の違いなど、中森版と竹内版で解釈が違うこともファンの間では有名です。