法廷で男と対面する。敏さんは、「私が感情を乱す相手じゃない。冷静に見つめる」と鋭い視線を向けた。「私たち遺族は、逃げも隠れもしない。法廷で遮へい版も必要ない」。
これまで男からの謝罪の言葉も反省の弁もなく、初公判を迎える。「真実を知るために、1歩も、1ミリも引くわけにはいかない」。
遺族として法廷で読み上げる意見陳述書は、将太さんのきょうだいはすぐに書き上げた。しかし妻・正子さんは、どうしても、事件が起きたあの夜を思い出してしまうのか、なかなか書けなかったという。
敏さんは正子さんに、「どんなことでもいいから、思いつくことを書いてみたら」と声をかけたが、敏さん自身は、家族と異なる視点から意見を述べなければというプレッシャーから、なかなか進まなかった。
ベッドにスマートフォンを持ち込み、下書きを打ち込みながら、朝方まで眠れない日もあった。
法廷には将太さんの遺影を持って入るつもりだ。「将太にも聞かせたい、見せたい。将太の友人が法廷で見守ってくれる。そこには将太もいる。だから頑張れる」。
男が逮捕されて初めての将太さんの命日、2021年10月4日を前に敏さんは、「遺族感情が先走るものでもなく、犯罪の抑止につながるもの、被害者・遺族が納得できる公判でないといけない」と語っていた。そして「『将太はなぜ殺されたのか』と男に問いたい。どのような答えが返ってくるかわからない。しかしそれが将太にとって最良の決着をつけること」と信じてやまない。
※いずれも容疑者として特定されて指名手配され、逃亡中、顔に整形を施すなどしていた。