ザ・ベンチャーズの来日をきっかけに1960年代の日本ではエレキギター、エレキ音楽の大ブームが起こります。しかし、ある事件をきっかけに全国の学校では「エレキ禁止令」が……。昭和のエレキ音楽にまつわる悲喜こもごものエピソードについて、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が、ラジオ番組で語り合いました。
【中将タカノリ(以下「中将」)】 今回は1960年代に全国の学校に波及した「エレキ禁止令」について紹介したいと思います。
【橋本菜津美(以下「橋本」) えっ!? エレキってエレキギターのことですよね? なんでそんな禁止令が出たんでしょうか?
【中将】 まず背景ですが、1965年1月、ザ・ベンチャーズの来日をきっかけにエレキギターと、早弾きのエレキギターをフィーチャーしたバンドスタイル「エレキ」が注目されました。当時のトップアイドルだった加山雄三さんも1965年12月公開の主演映画「エレキの若大将」でエレキブームを大々的に紹介し大ヒット。出演したギタリスト、寺内タケシさんのテクニックもあらためて注目され、1966年以降のグループサウンズブームにも繋がるムーブメントになります。
【橋本】 若者の間でバンドブームが起きたわけですね!
【中将】 はい。ですがそんな矢先に事件が起こります。1965年に栃木県足利市内の鑁阿寺(ばんなじ)で「エレキ・ジャズ・フェスティバル」という野外フェスが開催されるんですが、そこで大量の未成年者の飲酒、喫煙が発覚し、数百人が補導されます。これをうけて同年10月、エレキは若者の不良化をうながすということで足利市教育委員会が「エレキギター禁止令」を発表しました。
【橋本】 エレキやロックってちょっと不良っぽいイメージがあるし、そういう雰囲気にあこがれた若者が集まっちゃったんでしょうか?
【中将】 そうなんでしょうね。当時の足利市はあまり都会とは言えない地域なので、最先端の若者文化が体験できるイベントということでいろんな人が集まっちゃったんでしょう。ともあれ、この禁止令はかなり厳しい内容で、市内の小中高校でエレキギターの購入、バンド結成、演奏会の企画・参加、テレビのエレキ番組視聴を禁止させました。
【橋本】 なにか対策しなくちゃと思ったんでしょうけど、内容が細かすぎてもはや人権侵害ですね……。
【中将】 あろうことか、この禁止令は全国の学校に波及していきます。体制がエレキという若者文化を潰そうとしたわけですね。さて、当時若者を不良化させると言われたエレキとはいったいどんな“恐ろしい”音楽だったのでしょうか? その一例として紹介するのは、ザ・ベンチャーズで「ダイアモンド・ヘッド」(1965)。
【橋本】 これは私も知っている曲です! たしかにお酒がおいしくなりそうなサウンドですが、これが当時の若者を不良化した“恐ろしい”音楽なんですね……(笑)。