兵庫県警機動隊に所属していた男性巡査(当時24歳)が自殺したのは、所属していた機動隊で先輩や上司から受けたパワーハラスメントなどが原因だとして、広島市在住の両親が兵庫県(兵庫県警)に約8千万円の損害賠償を求めた控訴審で、県が賠償金として142万円を支払い、両親に謝罪して大阪高裁で和解した。
亡くなった巡査・木戸大地さんは広島市内の高校を卒業後、2009年に兵庫県警に採用された。2012年から機動隊に勤務し、2015年7月ごろにうつ病を発症して同年10月に神戸市内の宿舎で自ら命を絶った。
両親は2017年10月に提訴。大地さんは機動隊内部のパワハラが原因で自殺したと主張していた。そして、真実を明らかにして、兵庫県警に対し「パワハラと自殺との因果関係」を認めるよう訴えていた。
被告の兵庫県側は和解文書に「隊員によるハラスメントがあった、精神的苦痛を与えたことを真摯に反省する」という趣旨の文言を記し、これまでの主張とは一転してパワハラを認め、正式に謝罪した。
ただ、パワハラと自殺との因果関係には言及していない。
原告代理人の市川守弘弁護士によると、警察組織でのハラスメント事案で、謝罪を含んだ和解は極めて珍しいという。
そのうえで、「(目撃証言などからパワハラがあったという)間接的な証拠はあったが、直接的な証拠(大地さん心療内科などへの通院歴や医師の診断書)がない中で、裁判所は極めて慎重な判断をしたと思う」と振り返った。
大地さんの父親・一仁さんは、提訴から8年半が経ち、気持ちが折れそうになったこともあったことを振り返りつつ、「事実上の“勝訴”と言っていいと思う。大地には『勝ち取ったよ』と報告したい」と話した。
さらに一仁さんは「兵庫県警は、関係者約130人から聞き取りまで行ったが、いったんはパワハラを否定していた。あの時(兵庫県警が)素直に事実を認めていれば、本来、もっと早く結論が出ていたはずだ」と苦言を呈した。
一仁さんは3月初め、ラジオ関西の取材に対して、「大地は自分の命と引き換えに、パワハラという理不尽な行為に立ち向かった。では、親の私は大地の遺志を継いで何をすれば良かったのか。それは、真実を明らかにすること」と力説していた。
和解は解決ではなく、新たな課題を突き付ける。一仁さんはこの日の会見で、「兵庫県警は、今後絶対に変わってほしい。大地の死を無駄にしないでほしい」と話した。