【橋本】 「ききわけのない女の頬を一つ二つはりたおして」……この番組を始めてから知った曲ですが、初めはすごく衝撃的でした(笑)。何をやってもカッコいい沢田さんでも許されないパワハラですね!
【中将】 最近では男性が女性に手を上げる歌なんてあり得ませんもんね。
【橋本】 時代の変化だと思うんですけど、最近は男性から女性への暴力は絶対NGだし、カッコ悪いこととされていますよね。
【中将】 「悪い時はどうぞぶってね」の奥村チヨさん『恋の奴隷』も近いベクトルの曲ですが、発売された1969年当初から批判はあったみたいですね。ただ1990年代頃までは“愛情がある”という前提でビンタくらいまでならカップル間、夫婦間の暴力をギリギリ容認する風潮があったように感じます。
【橋本】 そんな近い時代まで許容されていたんですね……ちょっと怖く感じてしまいます。
【中将】 お次は教師によるパワハラを歌った曲です。桜田淳子さんで『叱られてから』(1975)。
【橋本】 「あなたは本気でぶってくれたわ」……!
【中将】 非行に走りかけた女子生徒を教師がしばいて更生させたというわけですね……。今40歳ですが、僕たちの世代までは暴力をふるう教師っていっぱいいましたね。「お前を殴る先生の手はもっと痛い」とかいう迷言も何度も聞きましたが、「じゃあ僕が先生を殴ったほうがいいんじゃないですか?」って話だよね(笑)。
【橋本】 (笑)。私は学生時代、陸上部だったんですが、体育会系って先生や監督に厳しく叱られたり体罰受けたことを大人になっても感謝している人が多いと感じています。今は絶対NGだとはわかってるんですけど、そうなる思考は私も半分理解できちゃうんですよね……。
【中将】 部活や校則ってパワハラの温床になりやすいですよね。男女間の暴力に置き換えるとそのヤバさがわかりやすいと思うんですが……。
一方で、最近は歌舞伎界や落語界のような伝統芸能の世界でもパワハラが取り沙汰されるようになりました。オールドスタイルの師弟関係もまたパワハラの温床になりやすい。お次は美空ひばりさんで『越後獅子の唄』(1950)。「親方さんに芸がまずいと叱られて撥(ばち)でぶたれて」……。
【橋本】 越後獅子ってどんなものなんでしょうか?
【中将】 新潟県の郷土芸能で、子どもを使った獅子舞の大道芸のことです。親方が貧しい家の子や孤児を買い取り、暴力を交えて稽古をさせるなど環境が劣悪だったことで知られ、すでに明治時代に警視庁から禁止令が出てるんですね。1933年には「児童虐待防止法」により子どもを使った金銭目的の大道芸自体が禁止され、いったん滅びています。
【橋本】 なるほど……ここまでひどくないにしても、今でも芸事の師弟関係ではパワハラや暴力が起こっているって聞きますよね。劇団とかのお芝居でもよくトラブルになってますもんね。中将さんは古い世代の方たちとご交流が多いと思うんですが、どう思われますか?
【中将】 ちらほら聞くことはあるけど、あまり巻き込まれたことはないんですよね。加賀テツヤさんはじめ紳士的な方たちばかりにお世話になりましたから。立場をかさに着る、年齢をかさに着るとか最低だと思っています。