旧優生保護法(1948~1996年)のもとで不妊手術を強いられたのは違憲だとして、兵庫県内の聴覚障害者の夫婦2組と脳性まひのある神戸市の女性の計5人が国に計5500万円の損害賠償を求めた訴訟で、旧優生保護法を違憲と判断したものの、賠償請求をいずれも棄却した3日の神戸地裁の判決を不服とした原告らが16日、控訴した。
全国9地裁・支部で起こされた損害賠償請求訴訟の判決は6件目。違憲判断は仙台、大阪、札幌の3地裁判決に続き4例目となった。これまで国に賠償を命じた判決はない。
神戸地裁は判決で、「旧優生保護法の立法目的は極めて非人道的であって、個人の尊重を基本原理とする憲法の理念に反することは明らかだ」と指摘した。さらに改廃を怠った国会議員の不作為を違法とする初の判断も示した。一方、原告らの損害は強制不妊手術が行われた1960年代に発生し、精神的に著しい被害を原告らに与えたと認められ、原告らは損害賠償請求権を有していたが、手術が行われた頃に訴訟提起が困難だったとしても、遅くとも1996年の法改正の時点では手術が不法行為に当たると認識できた。そして2018年~2019年の提訴までに20年の「除斥期間」が経過したため、損害賠償請求権は消滅したと判断した。
今回の司法判断について藤本尚道弁護士(兵庫県弁護士会)に聞いた。
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■除斥期間と時効
今回の神戸地裁判決を理解していただくために、まず、「除斥期間」と「時効」との違いを説明する必要があります。おおまかにいうと、除斥期間とは権利(請求権)が発生してから一定の期間が経過することによって権利が失われてしまう法制度です。時効の場合は、中断したり、停止されたりすることがあり得ますが、除斥期間は中断することがなく、また、原則として停止の適用もありません。
改正前民法724条は「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する」と定めており、消滅時効の起算点は「損害及び加害者を知った時」です。つまり、被害者にとって「権利行使が可能となった時点」から時計の針が動き出します。
ところが、同条後段の「不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする」との規定は、その法的性質について見解の対立(時効か除斥期間か)がありましたが、平成元(1989)年12月21日の最高裁判決で「同規定は、除斥期間を定めたものと解すべき」と判断され、これが現在の確定判例となっています。