川崎重工業(神戸市中央区)から中国の関連会社に出向していたエンジニアの男性社員(当時35歳)が自殺したのは、川崎重工側が海外での過重な業務やストレスを放置し、安全配慮義務を怠ったためとして、男性の遺族が同社を相手に約1億円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が12日、神戸地裁で開かれた。
訴状などによると、男性は2013年4月に川崎重工の中国での現地企業との合弁会社に出向し、セメント機器設計担当として現地に単身赴任した。
初めての海外勤務で、中国語はほとんど話せなかったため、現地でのコミュニケーションが十分に図れず、赴任後間もない時期に続発したトラブルと、その責任の所在を追求する合弁企業の川崎重工に対する不信感が募ったことによる調整業務に手を取られ、本来の業務に専念できず、複数の案件が手付かずになったという。同年6月にはうつ病の症状が見られた後、7月に単身赴任先のマンションから飛び降り自殺した。
遺族の代理人弁護士は、残されたメールのやり取りなどを分析し、「川崎重工は男性について、過重労働になることを認識しながら調整役の切り札として位置づけ、合弁会社との間で板ばさみになった」と指摘している。
■「夫は次第に能面のように表情がなくなり……」妻が意見陳述
12日の口頭弁論で、妻が約15分にわたり、「いまだに夫の突然の死を受け入れられない。通信アプリFaceTime(フェイスタイム)で毎日のように夫の顔を見ながら会話していたが、しだいに夫は痩せてゆき、能面のように表情がなくなった。自殺後、中国の公安当局から『(自殺は)仕事以外に原因はない』と聞かされた。
言葉もわからず、環境も異なる中でのストレスが蓄積していたに違いない。会社側が夫のSOSを受け止めてくれていたら」と意見陳述した。
遺族は川崎重工の対応について、男性とひんぱんに連絡を取り、指揮命令下にあったという前提で、「海外赴任は単なる転勤ではない。会社には安全配慮義務があった」主張しているが、川崎重工側からの謝罪はなく、過労死自体を認めていないという。
男性が所属した部門に他に日本人がおらず、現地の通訳者を介しての業務だったことを踏まえ、神戸東労働基準監督署は2016年3月、男性の自殺について、「職場での意思疎通が不十分だった」と指摘し、過剰な業務を対応しきれずに心理的負荷が強まったとして、労災認定した。