旧優生保護法(1948~1996 年)のもとで不妊手術を強制されたのは憲法違反だったとして、兵庫県内の聴覚障害者の夫婦2組と先天性脳性まひのある女性の計5人(このうち2人は提訴後に死去)が、国を相手取り損害賠償を求めた訴訟(兵庫訴訟)で、新たに聴覚障害がある女性2人が3日、神戸地裁に提訴する。
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旧優生保護法をめぐる訴訟はこれまで神戸地裁をはじめ、全国の10地裁・支部に起こされた。昨年(2022年)以降、大阪・東京の各高裁で逆転勝訴、熊本・静岡各地裁の4件で勝訴しており、国に賠償命令が出された。
2021年8月の神戸地裁判決は、不法行為から20年が経過すると賠償請求権が消滅する、民法の「除斥期間」を理由に請求を棄却され、原告が控訴している。控訴審判決は3月23日に大阪高裁で言い渡される。
■自ら受けた被害、裁判で訴え出ることできず
原告らは控訴審で、「国は明確に憲法に違反する法律を作り、長らく廃止せず、強制不妊手術を行う中、障がい者に対する偏見差別を助長、推進した」などと主張している。
そのうえで「旧優生保護法が、1996(平成8)年に母体保護法として改正された後も、国は違憲だったと認めず、当時は適法だったとして被害救済をしなかったため、原告らが訴え出る状況ではなかった」としている。
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弁護団によると、3日に提訴するのはいずれも60代の女性で、それぞれが3300万円の賠償を請求する。3月3日は「耳の日」でもあり、 聴覚に障がいがある人たちに対する理解を深める日でもある。
神戸市内の女性は幼少期に聴覚障がいとなった。聴覚障がいがある夫と結婚し、1990(平成2)年に第2子を出産した後、何の説明がないまま不妊手術をさせられ、第3子の出産をあきらめたという。
この女性は、これまでの訴訟の経緯を知り、自分も被害者だと気付いた。そして、「障がい者として差別を受けてきたことを、今までは仕方がないことだと諦めていたが、これから始まる長い裁判、負けずに頑張りたい」と話している。
もう1人は兵庫県内在住の女性で、先天性の聴覚障がいがあった。1981(昭和56)年、第1子出産時に不妊手術を受けさせられたという。
弁護団は、「原告らは、自らの意思に反し、または何らの情報も告げられないまま、不妊手術を強いられた。そして、”優生思想”に基づく偏見差別が渦巻く日本社会で裁判を起こすことができない状況に置かれ続けてきた」と主張する。
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藤原精吾・兵庫訴訟弁護団長は、今回の第3次提訴と、第1~2次提訴の控訴審判決を前に、「国に賠償金を支払わせる、謝罪させるだけで裁判が終わるのではない」と訴える。
そして、「障がいがあっても、人間らしい生活ができる社会になるよう変えて行くことが重要。48年間施行された旧優生保護法。その結果、”優生思想”が社会に根付いてしまった。2016年に起きた、知的障がい者福祉施設・津久井やまゆり園事件(神奈川県相模原市)では、『障がい者は生きる意味がない』という理由で、19人もの尊い命が奪われた悲しい現実がある。障がい者のみならず、女性に対する配慮、LGBTQへの理解も、口先だけではいけない」と話した。