2000年代初頭、日本で大ブームを巻き起こした「カスピ海ヨーグルト」。その当時、大阪の阪神百貨店梅田本店にオフィシャルショップができると、お店の外までずらりと行列ができるほどの人気っぷりだったとか。
いまやスーパーでも入手でき、おなじみのヨーグルトとして定着していますが、商品化にいたるまではさまざまなドラマがあったそうです。現在、カスピ海ヨーグルトを販売している食品メーカー「フジッコ株式会社」(本社:兵庫県神戸市)の入道さんに詳しい話を聞いてみました。
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カスピ海ヨーグルトは、医学博士である家森幸男氏がヨーロッパのコーカサスにあるグルジア(ジョージア)地方から日本に持ち込んだ種菌がもととなり、誕生しました。
「家森先生が世界の長寿地域を研究するためコーカサス地方を巡った際、たくさんのヨーグルトを研究用として持ち帰ってきました。それらを研究対象として調べるうち、常温で発酵する変わったヨーグルトを発見。食べてみると酸味も少なく非常においしいということが分かりました。医師である家森先生の妻が友人におすそ分けするうち、全国へとどんどん広がっていったそうです」(入道さん)
当時、インターネットが一般に普及しておらず、まったくの無名であったカスピ海ヨーグルト。「おすそ分け文化」が根付いていたこともあり、ほぼ“口コミのみ”でブームとなったというから驚きです。
あまりにも広がり方が爆発的ということで、家森氏は安全なヨーグルトを食べられるよう、正式な頒布へと乗り出します。一般人が家庭でヨーグルトを作るとなるとリスクも生まれるためです。家森氏が頒布に協力してくれる企業を探していたところ、納豆やお漬物、ナタデココなどの発酵食品を扱う「フジッコ」に白羽の矢が立ちました。
「当初、弊社がNPO法人の窓口として粉末の『カスピ海ヨーグルト手づくり用種菌』を製造・発送していました。頒布開始の3年後にあたる2005年から、種菌の頒布数が100万セットを突破したのをきっかけに、弊社で製造・販売の事業を引き継ぎました」(入道さん)
当時は注文者が多すぎるあまり電話が鳴りやまない状態だったといいます。一方で「粉末の状態からヨーグルトを作るのは難しい」という声もあり、容器に入ったヨーグルトの販売もスタートしました。
入道さんは、カスピ海ヨーグルトが人気となった理由をこう分析します。
「まず日本の気候なら、常温で置いておくだけで発酵できるという点が最大の強みだったのではないでしょうか(夏季など室温が高くなる時期はのぞく)。また、酸味が弱く食べやすいところも魅力のひとつです。ヨーグルトといえば水気が多く酸っぱいもの……という認識が当たり前だった時代、カスピ海ヨーグルトは粘性があるため水があまり出ず、濃厚な味わいを感じられるところが新鮮だったようです」(入道さん)
大ブームから20年ほどが経ったいま、コロナ禍の影響もありカスピ海ヨーグルトの売上は伸びているそうです。「免疫力をつけたい」という健康志向な人や「自宅でおいしいものが食べたい」という人が増えたことが影響しているのだとか。