播磨地域は「日本酒のふるさと」とも言われる、酒造りの名所です。今回は、明治時代から続く姫路の老舗酒蔵に詳しく取材しました。
☆☆☆☆
姫路市にある灘菊酒造は、1910年(明治43年)の創業から115年を迎えました。市川の清らかな水と地元産の米を生かし、「姫路でしか出会えない酒」をコンセプトに、小規模で丁寧な手づくりの酒造りを行っています。現在、蔵を率いるのは4代目の川石光佐さん。兵庫県で初めての女性杜氏(とうじ)としても知られています。
灘菊酒造の敷地内には、明治時代から残る木造の蔵が6棟あります。「古い蔵は手入れが大変ですが、必要最低限の補強と安全対策を行い、“使いながら守る”ことを大切にしています」と川石さん。現在は鉄筋造の蔵で酒造りを行っていますが、1963年(昭和38年)まで使われていた木造蔵には当時の雰囲気が今も残され、レストランや酒蔵ミュージアムとして活用されています。
2001年に杜氏として酒造りを始めた川石さん当時は兵庫県で唯一の女性杜氏だったといいます。女性ならではの苦労はあるのかという問いかけには「女性だから難しい、ということはあまり考えないようにしています。たとえば米袋を運ぶなど力仕事はありますが、単位を小さくするなどの工夫をすれば女性でもできますし、うちの蔵は本当に女性が多いんですよ」と笑顔で話します。
姫路は温暖な気候と豊かな水に恵まれた土地です。灘菊酒造では、市川水系の超軟水を仕込み水に使い、山田錦や兵庫夢錦、愛山など地元産の酒米を使用しています。「愛山は栽培が難しいお米ですが、夢前町の農家さんが復活させてくれました。地元の素材で作ることに意味があると感じています」と川石さんは話します。
同社の生産量の約7割は、酒蔵に併設された直売所やレストランで行われています。「姫路に来て、ここで味わってもらいたい」との思いから、日本酒と地元食材の料理が楽しめるレストラン事業も展開。川石さんは「父の代から“酒と食を楽しめる蔵”を目指してきました。姫路城の世界文化遺産登録をきっかけに酒蔵を改装し、観光客にも開かれた空間づくりを進めたと聞いています」と、先代の想いを振り返ります。
海外からの注目も高まっています。国によって好みや関心が異なるといい、その需要に応えるため、スライドや動画を使ったセミナー形式の酒蔵見学も始まりました。近年は海外ファンも増え、伝統的な酒造りを通じた国際交流の輪が広がっています。
「この土地で造り続けることに意味があると思っています。姫路の風土を映すお酒を、次の世代に受け継いでいきたいです」と川石さん。灘菊酒造の挑戦は、地域の伝統と新しい感性をつなぐ取り組みとして、静かにその歩みを続けています。

(取材・文=洲崎春花)
※ラジオ関西「ヒメトピ558」2025年11月14日、21日放送分より



