角大師の護符の起源について吉田住職は「良源が没する前年、疫病神に襲われそうになった。本来はこの疫病神を粉砕するだけの霊力があるのだが、そこは待て待て……疫病神とて生きるものであり、試みに小指の先で疫病神を衝いたところ激痛が全身を走り、高熱を発したという。この良源をもってしてこれだけの痛みがあるのだから、民衆はもっと大変な目に遭ってしまう。これによって疫病神除去のために自ら角を生やした降魔の姿を示して、弟子たちがその絵を版木に彫り、札を刷って都に配り疫病を鎮めた」と説明する。
「いまコロナ禍にある。病を防ぐことは大切だが、気持ちまで萎えてしまってはいけない」。さかのぼること10年前、2011年3月11日に起きた東日本大震災の救援で惨状を目のあたりにした吉田住職は、2020年の東日本大震災9年を前に被災地へ向かった。しかし雪が降らない異常気象に遭遇、「何かがおかしい」と感じ、ふと角大師のお札を比叡山延暦寺一山・大林院(滋賀県大津市坂本)から譲り受けようと思い立った。そして疫病が世界を襲うことになる。嫌な予感が的中してしまった。
『生老病死』この世で避けることのできない人間の苦悩。生まれること、老いること、病気をすること、死ぬこと、いわゆる四苦を改めて思い返した。
お札は角大師ともに「元三大師疫神病除」という文字が記されている。復刻札は、護符として家庭用に貼りやすい大きさ(縦13センチ、横5センチ)に印刷し直した。まず最初に1000枚を復刻したが、注目度が高く、2020年12月までに2万枚を授与したという。ただし、この護符を貼れば新型コロナ感染拡大が収束するのではなく、吉田住職は護符の角大師を目にするたびに「人にうつさない。自身もかからない」という生活様式のあり方を問うてほしいと話す。
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「見てて面白い姿ですよね」地元・長浜城歴史博物館の学芸員・福井智英さんが微笑んでその姿を眺める。福井さんは1995年、長浜の歴史を研究するなかで元三大師・良源の存在を知る。「比叡山の高僧、天台座主になった人物が、姿を変えて民衆を守るというストーリーに魅力を感じました。妖怪・アマビエはSNSで広まりましたが、もともとは実在の人物としての元三大師の方が知られています。何となく愛嬌もありますし、元三大師のお札や護符を、機会あるごとに集めるようになりました。イケメンにコワモテ……いろんな表情があるんですよ」
福井さんの護符のコレクションをはじめ、それぞれの寺院が出す護符の元三大師の表情が微妙に異なる。