中国合弁会社との間で板ばさみ 川崎重工社員、ストレス苦に自殺 妻「ここまで過酷だったとは…」損害賠償請求 神戸地裁

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 川崎重工業(本社・神戸市中央区)から中国の関連会社に出向していたエンジニアの男性社員(当時35歳)が自殺したのは、川崎重工側が海外での過重な業務やストレスを放置し、安全配慮義務を怠ったためとして、男性の遺族が12日、 同社を相手に約1億円の損害賠償を求め、神戸地裁に提訴した。

訴状提出に向かう妻と代理人弁護士ら<2022年5月12日午後・神戸地裁>
提訴後、会見する妻<2022年5月12日午後・神戸市内>

 男性は2013年4月、川崎重工の中国での現地企業との合弁会社に出向し、セメント機器設計担当として現地に単身赴任した。初めての海外勤務で、中国語はほとんど話せなかったため、現地でのコミュニケーションが十分に図れず、赴任後間もない時期に続発したトラブルと、その責任の所在を追求する合弁企業側の、川崎重工に対する不信感が募ったことによる調整業務に手を取られ、本来の業務に専念できず、複数の案件が手付かずになったという。

 同年6月にはうつ病の症状が見られ、7月に単身赴任先のマンションから飛び降り自殺した。
遺族の代理人弁護士は、残されたメールのやり取りなどを分析し、「川崎重工は男性について、過重労働になることを認識しながら調整役の切り札として位置づけ、合弁会社との間で板ばさみになった。これだけずさんな勤務管理体制だったのかと驚いた」と話す。

 男性が所属した部門には、他に日本人がおらず、現地の通訳者を介しての業務だったことを重く見た神戸東労働基準監督署は2016年3月、男性の自殺について、「職場での意思疎通が不十分だった」と指摘し、過剰な業務を対応しきれずに心理的負荷が強まったとして、労災認定した。

 男性のパソコンを解析すると、上司とのメールのやりとりでは、多い時で月に400件以上にのぼった。男性は「トラブル対応から身を引きたい」と訴え出ていたが、上司からは逆に「トラブル対応を正式な業務とする」と指示する文章が届いたという。
 遺族側は川崎重工の対応について、男性とひんぱんに連絡を取り、指揮命令下にあったという前提で、「会社には注意義務があった」主張している。男性は出向中、ほぼ毎日、家族とビデオ通話アプリで会話していたが、自殺する半月前には顔の表情が消え、妻に疲れ切った表情で「子守歌を歌ってくれ」などと話すようになったという。

 さらに中国へ赴任する前の男性について、内臓疾患が見受けられるなど健康状態が芳しくなく、産業医から「原因の精査と、改善を確認してから赴任させたい」という意見もあったという。こうした事実関係を踏まえ、代理人弁護士は「ビジネスのグローバル化が進み、海外への出向も増えている中、出向元や出向先が担うべき安全配慮義務は大きい」と話す。

「SOSを発し、苦しむ夫の状況を把握していた会社から何のケアもなく」妻が当時を振り返る<2022年5月12日午後・神戸市内>
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