神戸製鋼所が神戸発電所(神戸市灘区)で増設する石炭火力発電所について、住民ら40人が稼働の中止を求めた民事訴訟の第17回口頭弁論が18日、神戸地裁で開かれた。
原告らは改めて、「石炭火力発電所の稼働による温室効果ガス=CO2(二酸化炭素)の大量排出は、地球温暖化の温床であり、 将来ある子どもたちのためにも稼働停止を決断してほしい」などと訴え、結審した。判決は2023年3月20日。
神戸製鋼は、同市灘区灘浜の製鉄所の高炉跡地で、関西電力に供給する石炭火力2基(計130万キロワット)を増設。1基(3号機)は2022年2月に稼働開始。残る1基(4号機)も同年7月に試運転が始まり、同年度中の稼働を予定している。
その一方で、神戸製鋼は2050年の「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)」を経営の最重要課題に掲げている。
原告らは2018年9月に提訴。世界では気候変動危機に対応するため、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの普及促進など、「脱炭素」の動きが加速しているが、日本では大気汚染物質とCO2の排出が多い石炭火力発電所の建設が、神戸のみならず全国で進められており、このまま温暖化が進んだ場合、さらなる被害が起き得ること懸念している。
原告弁護団は、日本で排出されている二酸化炭素の約4割が火力発電所から出され、特に石炭火力は天然ガスの2倍もの二酸化炭素を排出すると指摘している。神戸製鋼が増設する石炭火力発電所は、神戸市灘区の住宅地から約400メートルしか離れておらず、窒素酸化物などの環境汚染物質の放出量が増え、健康被害などで平穏に生活する権利が侵害されると主張している。
一方、神戸製鋼側は化石燃料の使用量を減らせる設備や高性能のばい煙処理装置を導入しており、限度を超える健康被害は生じないなどとして請求棄却を求めている。
さらに「地球温暖化は特定の個人ではなく、地球全体の問題である」として、原告(住民ら)に稼働中止を求める資格はないとしている。
原告弁護団はこの考え方について、「皆の被害は誰の被害でもないという抗弁」と反論、ヨーロッパの複数の裁判所でこうした考えを排斥した例を挙げている。
そして、オランダ・ハーグ地方裁判所が2021年、温室効果ガス排出させた結果、気候変動を悪化させた事業者の責任を認めた例を引き合いに、CO2の大量排出は、もはや人権侵害であり、気候変動のさらなる悪化をもたらし、住民の生命・健康を危険に陥れる「公害」であるとの認識が求められると主張する。
日本は、温暖化対策を進めるために世界の平均気温を抑える努力を追求する「パリ協定」を2016年に批准、2020年12月、菅首相(当時)も「温室効果ガスを2050年までに実質ゼロにする」と宣言している。
パリ協定は「世界の平均気温上昇を、18世紀後半から19世紀にかけて起きた産業革命以前(人為的な温暖化が起きる前)に比べて2度より十分低く保ち、努力目標として1.5度以下にする」全世界共通の国際的な取り組み。
原告弁護団の1人、浅岡美恵弁護士はプレンテーションで「危険な気候変動は、原告らの生命・健康・生活基盤への深刻な脅威」と警鐘を鳴らし、2022年、相次いだ豪雨で国土の3分の1が水没したパキスタンの例や、国内外の記録的猛暑記録などを挙げ、「これらの事象は地球温暖化がなければあり得ない」と述べた。
さらに「温暖化で10年、50年に一度の極端な高温が日常化する。パリ協定に定めた、平均気温上昇を1.5度に抑えるためには、温室効果ガスの排出自体を2030年には半減、2050年には実質ゼロにしなければならない」などと訴えた。