鉄鋼大手「神戸製鋼所」が神戸市灘区に増設した石炭火力発電所2基について、国の環境影響評価(アセスメント)の確定通知は違法だとして、周辺住民らが国を相手取り、通知の取り消しなどを求めた訴訟の上告審で、最高裁(第1小法廷)は9日付で住民側の上告を棄却する決定をした。請求を退けた一、二審判決が確定した。
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この訴訟で原告らは、経済産業省の環境アセス手続きに瑕疵(かし=不十分なこと)があるにもかかわらず、変更の必要がないとした通知は違法だと主張していた。温室効果ガスの排出が多く、世界的に廃止される流れが強まっている石炭火力発電所について、環境アセスメントに対する国の判断の是非が初めて争われた。
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最高裁は一、二審判決と同様、 「CO2(二酸化炭素)の排出で生じる地球温暖化による健康被害は、発電所の周辺住民に限られるものではない」として原告適格を認めなかった。
そのうえで「(アセスメント調査などの手続きが)適切かどうかの判断には、高度な専門性や技術が必要。(関係する法令に)調査を求める規定はなく、社会通念に照らして著しく妥当性を欠くとは言えない」として、経済産業大臣の裁量に逸脱や乱用はなかったとした。
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経済産業省は2018年5月、神戸製鋼が提出した環境アセスを認めた。
しかし原告らは、経産省は地球温暖化を助長する二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない他の燃料を検討せず、微小粒子状物質(PM2・5)による大気汚染への対策も不十分のまま、環境アセスの手続きが終了したとしていた。
そして二審敗訴後、「気候変動とそれを加速する CO2(二酸化炭素)の大量排出は、現時点でも違法な人権侵害であるとの法的認識が急速に広まりつつあり、世界各国の裁判所がこれを前提とした判決を次々に下している。大気汚染物質に対する認識と対策の遅れを取る日本が、公害国家になることを防ぐことができるか、日本の司法の役割が問われている」と訴えていた。
弁護団は最高裁の決定を受け、「日本でCO2の大量排出という重大な人権侵害行為を、現時点では行政訴訟では一切争えないとする最高裁の決定は、憲法上保障されている『裁判を受ける権利』をも侵害する」と批判した。
そのうえで「日本の気候変動に関する危機感の希薄性や、温暖化対策への切迫性がない気候変動の被害について司法による救済の道を閉ざしかねない」としている。
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日本は、温暖化対策を進めるために世界の平均気温を抑える努力を追求する「パリ協定」を2016年に批准、2020年12月、菅義偉首相(当時)も「温室効果ガスを2050年までに実質ゼロにする」と宣言している。
パリ協定は「世界の平均気温上昇を、18世紀後半から19世紀にかけて起きた産業革命以前(人為的な温暖化が起きる前)に比べて2度より十分低く保ち、努力目標として1.5度以下にする」全世界共通の国際的な取り組み。