神戸市北区の路上で2010年10月、堤将太さん(当時16歳・高校2年)が殺害された事件で、殺人罪に問われた男(30・事件当時17歳)の裁判員裁判が、6月7日、神戸地裁で始まる(判決は6月23日)。
初公判を前に、将太さんの父親・敏さんがラジオ関西の単独インタビューに応じた。
「どうやら6月に公判が始まるようだ」。敏さんは2023年が明けて間もなく、こうつぶやいた。「被告に何を、どう聞くか。これから半年…時間が足りない」。
計700ページにも及ぶ事件資料の写しを読み込んではいたものの、読むたびに新たな発見があり、疑問が生まれ、怒りが噴き出す。
関係者によると、男は「(将太さんに対する)殺意はなかった」と主張しているという。検察側が容疑者の起訴前に精神鑑定を行い、起訴後に弁護側が精神鑑定を求めるケースは少なくない。この事件も同様で、弁護側は2度目の精神鑑定の結果を踏まえ、統合失調症などの疾患により、善悪を判断し、それに基づいて行動する能力が極めて低下している「心神耗弱」を理由に、刑を軽くするよう求めるという。争点は男の責任能力と殺意の有無となる見通し。
敏さんは、「殺人事件を起こした、そのことはもちろん裁かれなければならない。しかし、もっと知りたいことは、あの夜(事件が起きた2010年10月4日)、男はどういう経緯で逃亡に至ったのかということ。誰かが主導して“逃げる”形を取らせたかも知れない。男は当時17歳、単独で逃亡を考えたとは思えない」と訴える。
ラジオ関西が敏さんにインタビューした音声記録は、事件発生から13年、計10時間近くに及ぶ。この中で語る敏さんの疑問は、男が2021年8月4日に逮捕される前、いわゆる「コールドケース(未解決事件)」と呼ばれていた頃から一貫して変わらない。「なぜ、将太が殺されなければならなかったのか」という”問い”とともに、12年越しの疑問を投げかける日が来る。
しかし、法廷での審理対象は殺人罪についてのみ。事件から10年10か月後に逮捕された男の”逃亡”について、掘り下げて審理されることはない。
起訴状によると、男は2010年10月4日午後10時45分ごろ、神戸市北区筑紫が丘の歩道上などで、将太さんの上半身などを折りたたみ式ナイフで複数回突き刺すなどし、失血死させたとされる。
事件発生当時、複数の近隣住民がラジオ関西の取材に「将太さんが女子生徒と一緒にいる姿を何度か見た」と話していた。男も2人を見かけて、一方的に将太さんを襲い、殺害したとされる。
女子生徒は当時、犯人について「知らない男だった」と説明。事件直前に2人の立ち位置とは反対側に座り、自分たちを見つめる男について女子生徒は「気持ち悪いね」と話し、将太さんも「そうやな」と答えたという。将太さんと男は面識がなかったとされている。判明している外形的な事実はここまで。