神戸の街の中で、海と山が近いエリアのひとつである「塩屋」。神戸市の西部、明石市に隣接する垂水区に位置しており、目の前に穏やかな瀬戸内海が広がる。山手には外国人の別荘地としての名残を留め、現在も外国人居住区を擁する。片や、駅前は細い路地が入り組み、辺りには昭和の面影を残す商店が点在する一方、レトロな建物を活用して開かれたカフェなどのオシャレな店がトレンド発信拠点にもなっている。

風光明媚なこの街を愛してやまないのが、当地でプリントTシャツの店を営む土井絵里奈さんだ。土井さんが、自らの店「プリント工房バンブー」を塩屋に構えたのは2017年のこと。以前は、同じ神戸でも東部の六甲アイランド(神戸市東灘区)でインターネット中心の会社を経営していた。
元々、生まれ育ちも塩屋の近くではあったものの、会社移転の話が生じるまでは塩屋という場所のことをあまり知らなかったという。しかし、初めて訪れた際に挨拶をしてくれる人が多かったことで人と人の距離が近いと感じ、会社の移転先を塩屋にしようと決意。移転して1週間ほど経った頃には「ほとんどの人が顔見知りなのでは」と感じるほど、周りの人に知ってもらえたのだそう。そして仕事をするうちにどんどん街を好きになり、今は店だけでなく家も引っ越して、塩屋の住人となった。

そんな土井さんの趣味は散歩。よく街を練り歩いているそうで、商店街の広報紙に地域の記事を連載するほどだ。街は車が1台通れるかどうかというほどの細い道が多いが、土井さんによると、道が細いからこそ街を歩く人が多いのだとか。土井さんの店の前の道はJR・山陽塩屋駅に向かう通路として多くの人が利用するため、来店した人に「細い道やのに、すごく多くの人が通るね」とびっくりされるのだそう。
元々地域密着の店にしたいと考えていた土井さんは、1階の路面店にこだわる。店の隣のスペースは無人店舗として活用し、皿や小物などを置いている。仕事をする中で知り合いになった人に「ちょっとこれ置いてもらえないかな」と頼まれたことがきっかけだった。
街の人に少しでも面白いと思ってもらえるものを届けたいと、他の店の商品も置くようになった。時に、「ここは何のお店ですか?」と聞かれることもあるのだそうだ。
Tシャツ作りでも、人との触れ合いが大きな要素の一つになっている。最近は、自分だけのTシャツを作ることができるネットサイトも増えているが、土井さんは実際に店舗に来た人と一緒にデザインを考えていく過程を大事にし、オリジナルTシャツを1枚から制作している。「うまく撮れた写真をTシャツにすることもできますし、うちのワンちゃんをイラストにしてという依頼も受けています」と土井さん。あらゆるニーズに応えたいと、Tシャツ以外に暖簾(のれん)やエコバックなどの布商品に加え、冊子や名刺、パンフレットといった紙商品も取り扱う。

「私がなりたいのは商店主の“おばちゃん”」と話す土井さん。「あそこのおばちゃんに聞いたらなんかしてくれるかな、と子どもさんや街の人が思ってくれるような存在になりたい」と意気込む。