「養生喰い」という言葉をご存知だろうか? 古くからある言葉で、「健康のために肉を食べる(薬として食べるという説もあり)」という意味である。
今回注目したのは岡山県津山市。この養生喰いにまつわる歴史から、通の間では「肉の聖地」とまことしやかに囁かれているのだとか。

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山陰と山陽を結ぶ出雲街道が走る津山。牛馬を売買する「牛市」が705年(慶雲2年)には開かれていたとの記録が残っており、1300年以上前から牛馬の流通拠点であったことがうかがえる。
とはいえ675年に天武天皇が仏教の教えにより肉食禁止令を発していたため、江戸時代に突入するまでの1000年以上に渡り食肉(特に牛豚馬)を嫌悪する風習が定着していた日本。その中にあって、津山市藩と近江彦根藩(滋賀県)では養生喰い(=食肉)が認められており、このことが独特の食肉文化を発展させたという。
1854年(嘉永7年)の開国で日本には多くの外国人が流入したが、神戸に居留した者は津山の養生喰いのおかげで牛肉が入手できたという話もあるようだ。
さて、津山ではどのような“肉の食べ方”があるのかのぞいてみよう。
【干し肉】
津山名物のひとつ。牛肉ブロックを数日間干して旨味を凝縮させたもので、昔は保存食として用いられていたという。ビーフジャーキーのような固さはなく、老若男女問わず食べやすいのだそう。
【そずり肉】
「そずる」とはこの地域の方言で「けずる」とう意味で、マグロの中落ちのように骨から削り落とした肉を指す。鍋にして食べるのがおいしいそうで、これを「そずり鍋」という。醤油ベースの出汁にそずり肉のほか、野菜・キノコなども入れる。
【よめなかせ】
牛の心臓につながる大動脈。こりこりとした食感が特徴で、焼いたり天ぷらなどにするのがよいという。語源は「下処理が難しいので嫁さんが困る」「あまりにおいしいので嫁さんには食べさせられない」「精がつく」など諸説あるようだ。他の地域では「ハツモト」や「コリコリ」と言われる。




