神戸市須磨区、JR鷹取駅近くに建つ順照寺は、阪神・淡路大震災で本堂が全壊した寺のひとつだ。四代目住職の善本秀樹さん(66)は、住職に就任した翌年、1995年の震災で本堂を失った。奇跡的に無傷だった本尊を守りながら、地域の人々の協力で再建を果たした。


その経験から、“門をあえて設けない”開かれたお寺として再出発した順照寺は、防災や子ども向けの行事などを通じて、顔の見える距離感を大事に、地域との関わりを深めてきた。震災から30年が経とうとするいま、その姿勢は変わらない。

◆震災の記録を後世へ “避難できる寺”をめざして
震災後、善本さんが使命と感じているのが、震災への追悼と復興の体験談を語り継ぐこと。七回忌にあたる2002年には、記録誌『阪神・淡路大震災の記録―鎮魂と復興の願いを込めて』で、被災者の言葉を一冊に収めた。これは神戸市内の図書館にも寄贈されている。
一方、神戸市佛教連合会の会長を務める今、神戸市と連携して「災害時に寺院が避難場所となる仕組みづくり」にも取り組んでいる。順照寺では約50人が避難できるスペースを確保し、水や食料を常備。近隣の寺院とも連携し、いざというときに備えているという。

◆子どもたちとつなぐ学びと記憶
順照寺は、善本さんの母校でもある神戸市立東須磨小学校と深い関わりがある。善本さんは学校運営協議会の役員として、地域行事や防災教育に協力してきた。毎年夏に行われる子ども向けイベントでは、ボランティアと協力して子どもたちの居場所づくりを進めている。
今年8月の地蔵盆では約40人の子どもが寺に集い、バルーンアートなどを楽しんだ。秋には小学校の「地域探検」授業で、震災体験や命の尊さについて語った。「子どもたちから寄せられる率直な質問の一つひとつが、新しい気づきや学びになる」と善本さん。授業後に届く感想文集は、今も大切に保管している。
さらに、コロナ禍で一時途切れた地域活動を取り戻そうと、順照寺では、1階にあるコミュニティースペースを活用し、人が集える、出会える「場づくり」にも力を入れている。







