日本列島、本州を陸路で縦走しようとすると、必ず通らなければならない県が1つだけある。それが兵庫県。北は日本海、南は瀬戸内海、淡路島の向こうには太平洋と、本州で2つの海と接しているのは、両端の青森県、山口県を除くと兵庫県だけだ。
兵庫県はかつて、摂津・丹波・但馬・播磨・淡路の旧五国から構成され、多くの文化が入り混じっていた。2010年代には「ヒョーゴスラビア」という表現が登場した。かつてヨーロッパにあった多くの文化が混ざり合った国「ユーゴスラビア」になぞらえたものだ。
2020年からのコロナ禍で、日本では「都道府県をまたいだ移動の自粛」が求められた。県境付近に住む人は実際にどれだけ「県境」を意識したのか? 兵庫県「ヒョーゴスラビア」の旧五国ごとに県境付近を訪ね、そこに住む人の思いに迫る。第2回は、「播磨」。
<その2>播磨
播磨国は、兵庫・旧五国で一番広いエリアで、日本随一の古墳の数を誇り、兵庫県の中でも旧石器時代からの遺跡も数多く残る地域。赤穂市や佐用町などの西側が岡山県との県境だ。
赤穂義士で有名な赤穂市は兵庫県の南西に位置する。JR赤穂線で兵庫県の最西端にあるのが「備前福河」駅。兵庫県なのに岡山を意味する「備前」がつく。駅で男性にこんな話を聞いた。「昔は岡山だった。和気郡日生町福河。赤穂と合併して兵庫県になった」。
県を超えた市町村合併、これには自然災害も関係していた。「兵庫・神戸のヒストリアン」として活躍する歴史家の田辺眞人・園田学園女子大学名誉教授は解説する。
「1954(昭和29)年、福河の港が台風で大きな被害を受けた。翌年、福河村は日生町と合併したが、復興のためには資金が必要で、赤穂市と合併できないかという声が上がり、赤穂市も前向きだった。しかし兵庫と岡山、県を越えての合併になるのでスムーズにはいかない。赤穂市長が兵庫県知事に嘆願書を出したり、逆に岡山県議会はこれに対する反対決議を出したり、すったもんだの挙句、県境、昔の播磨と備前の境を超えて、1963(昭和38)年に、福河地区は赤穂市と合併した。このようなことがあり、現在もJRの駅は備前福河という、興味深い状態になっている」
駅で出会った男性は1955(昭和30)年生まれで、当時は岡山。小学生の時に兵庫県赤穂になったという。「小さかったのではっきりとはわからなかったが、賛成や反対でわかれていたことは覚えている」と話した。取材したラジオパーソナリティーの谷五郎さんは「JR備前福河駅には以前にも行ったことがあった。無人駅で、たまたま作業をしていた人から、かつては岡山だったと聞き驚いた」と話す。
◆『BORDER~ヒョーゴスラビアにおける県境とは』アーカイブ記事
(1)淡路…淡路に「阿波踊り」の文化が残る地域も?!
(3)但馬…獅子舞と“ステッカー”がつないだ地元意識
(4)丹波…ライバル意識バチバチの兵庫と京都 でも“大河”では結束
(5)摂津…「空港ターミナルの派出所に兵庫県警と大阪府警が詰めている」!?