兵庫県加西市をはじめとした北播磨は、酒米の王者“山田錦”の一大生産地。酒米の農家や、日本酒の蔵元なども多数存在するエリアだが、現在コロナ禍の影響で日本酒の需要が激減している。そのなかでも奮闘する加西の山田錦やお酒を支える人々に話を聞く。
加西市中野町で山田錦を生産し、老舗酒蔵と二人三脚で日本酒づくりに取り組む「農事組合法人なかの」。2008年まで「中野町営農組合」いう名称だった同組合は、農業の後継者不足や、放棄田の受け皿としての役割を担い、2019年に法人化。現在は145件の農家が所属している。現代の農業問題に向き合いながら、山田錦の栽培を行い、同じ中野町の老舗酒蔵「三宅酒造」と二人三脚で日本酒づくりにも携わっている。
「山田錦は酒米の中でも扱いが難しい品種。米粒や穂が大きく、稲自体も長いため倒れやすい特徴がある。収量も少なく、作りやすいとは言い難い品種」というのは、「農事組合法人なかの」の組合長・岡本忠義さん。そんなデリケートな山田錦と真摯に向き合い、最近では肥料を変えたりするなど、試行錯誤しながら地元が誇る酒米づくりに励む。
「化学肥料を少なくし、たつの市にある醤油蔵さん(ヒガシマル醤油)からもらったしょうゆの絞りかすを肥料として使用しています。(肥料が効きすぎて)大きく育ちすぎたり倒れてしまったりもしたのですが、収量が多くなる効果は得られたので、加減しながら山田錦にも使う予定です」(岡本さん)
「農事組合法人なかの」が肥料を変えた背景には、山田錦を納めている三宅酒造の存在が大きい。
200年の歴史を持つ三宅酒造は、地元で育った酒米と、同じ水系の伏流水から取る井戸水で日本酒を造り続けてきた。その7代目蔵元の三宅文佳さんは、家業を継ぐ前にドイツで暮らした経験を持ち、ワイン文化に刺激を受けた。ヨーロッパではワインの指標として、均一なおいしさではなく、その土地の風土・個性を大事にする。“遠く離れた加西で先代たちが守ってきた酒造りのこだわりが、世界とつながっている”として、家業の価値に改めて気づき、2020年春に帰国し7代目に。伝統ある三宅酒造に新しい息吹を吹き込んでいる。
そんな両者の思いが詰まってできあがったのが、岡本さんたちが育てた山田錦と、地元・加西を流れる万願寺川の地下水のみを使って作られた日本酒『Q/A(クエ)』。農家・蔵元による風土へのこだわりを「問いかけ・対話(Question)」、できた日本酒を「答え(Answer)」ととらえ、山田錦が育った中野町・九会(くえ)地区の名前にちなんだ。その新酒は人気で、蔵元でのみ販売されている生原酒はすでに完売。現在は追加分を仕込み中で、3月頃に改めて発売される予定。
コロナ禍の影響により、国内の米の消費量が低下や、外出自粛でお酒を飲む機会が減少しているのは「厳しい状況」だと岡本さんはいう。そのなかでも「私たちの作った山田錦を、地元の酒蔵が使って酒造りを行う。その誇りを大切に頑張りたい」と前を向いていた。
※ラジオ関西『PUSH!』2022年2月16日放送回「加西山田錦!酒ものがたり」より
・三宅酒造 公式HP
・農事組合法人なかの 公式HP】