第20代韓国大統領選挙は3月9日に投開票される。革新系与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事(57)と、保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長(61)との事実上の一騎打ちとなる。
韓国では国民自身が大統領を選ぶ直接選挙で、期日前投票初日となった4日の段階で、投票率が17.5%と高い。韓国中央選挙管理委員会によると、前回大統領選挙の期日前投票の最終投票率は26.06%、全体の最終投票率は77.2%だったが、これを上回る勢いだ。選挙結果は今後の日韓関係や南北関係などにも影響する。
スキャンダルの暴露合戦や派手なパフォーマンスが目立つが、実情はどうなのか。神戸大学大学院国際協力研究科・木村幹教授(韓国政治研究)に聞いた。3月8、9日と2回に分けて送る。
■まず、文在寅(ムン・ジェイン)政権とは何だったのか?
日本と韓国との間には「歴史認識問題」があり、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は日本では人気がなかったので、うまく行っていなかった感はあるだろう。ただ、韓国国政にとっては、コロナ禍にあって、OECD(経済協力開発機構)諸国の中で経済成長もいいレベルで終始したし、何よりも「レームダック化(任期中だが政治的影響力を失った政治家を指す。「死に体」とも)」しなかったことが大きい。今でも40%の支持率、大統領選候補者の支持率と大差ない。不安定ながらもダイナミックな動きを見せたような、かつての韓国にはなかった政権の形であり、良く言えば安全運転にも見えた。ただ日韓関係だけはそうではなかった。
韓国大統領は政権末期に親族や側近の疑惑で、捜査当局の取り調べを受けたり、朴槿恵(パク・クネ)氏のように、本人が逮捕されたスキャンダルもあったりしたが、文氏はこのまま現役中に捜査対象となることはない。後世に振り返って「このころ(文政権)から、韓国は変わったのかな」と認識されるのではないか。
文大統領は、就任翌年の2018年6月に北朝鮮とアメリカの首脳会談の実現に向け交渉を主導したこと以外、悪く言えば「何もできなかったし、何もしなかった」感はある。新型コロナ対策も、初期のころは「K(Korea)防疫」と呼ばれる、徹底的なPCR検査や隔離による独自の防疫体制を取り、準戦時的なトップダウンの住民管理制度でうまく行っていたが、結局はウイルスのほうが強かったと言わんばかりの結果だ。何もしなくて、結果オーライという政権だったように思う。
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■2022年・韓国大統領選 保守派(右派)候補の尹氏と進歩派(左派)候補の李氏、事実上の一騎打ちに
熾烈な争いを繰り広げるのは、最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)・前検事総長と、与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)・前京畿道知事。
尹氏がやや優勢とみられるが、選挙はみずもの。国際政治の研究者として一番つらいのは「この選挙、どうなるのか?」という問いだ。まず韓国は保守派(右派)と進歩派(左派)とが明確に分かれている。左から右、右から左への行き来はそう簡単には行かない。
■保守派・尹氏一本化の影響は? 李氏は“相手のエラー待ち”